謙虚への試練・引き金
雷鳴は次第に近づき、雲の底が低く垂れ込めていた。
サティとルリは街道沿いの小さな集落に足を踏み入れる。
雨避けを求めて集まった旅人や農民で広場はごった返していた。
「すみません、助けてください……!」
若い男が駆け寄ってきた。泥だらけの服、肩で荒く息をしている。
彼はサティの腕を掴み、必死に訴えた。
「隣村が……崩れた土砂で閉じ込められて……仲間がまだ中に……」
サティは反射的にルリへ視線を送る。
ルリはすぐに地図を広げ、険しい顔で言った。
「ここからだと半日以上はかかる。しかもこの天気……今向かえば私たちまで足止めを食らうわ」
その言葉は正しかった。
明日の朝には、目的地で待つ仲間との合流が控えている。
サティは短く息を吐き、男の手を振り払った。
「……悪いけど、私たちは行けない。もっと近くの人に頼んで」
男は絶望に顔を歪めたが、何も言わずに駆け戻っていった。
その背中を見送りながら、胸の奥で何かがざらつく。
「……今の、本当に良かったの?」
背後から聞こえたセリーヌの声に、サティは答えられなかった。
次の瞬間、空が裂けるような雷光が広場を照らす。
その光の中、サティの足元にだけ、淡い紋章のような影が浮かび上がった。
それは───試練の始まりを告げる印。




