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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第23章 謙虚の継承者・セリーヌ編

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謙虚への試練・予兆

夜の焚き火の向こうで、セリーヌは静かにお茶を淹れていた。


香り高い蒸気が漂い、疲れた身体が少しずつほぐれていく。


「……イザークと話をしていたみたいね」


カップを差し出しながら、セリーヌが穏やかな笑みを向けてくる。


仲間になってからしばらく経つが、この人は時折、何でも見透かしているような瞳をする。


「勤勉を覚醒させるには、謙虚が必要だと……そう言われました」


「ふふ、それは正しいわ」

セリーヌは炎の光を受け、銀髪をやわらかく揺らした。


「でも、あなたに“謙虚になれ”と命じても、すぐにできるものではないの。

 ──それは、痛みや迷いを通してしか芽生えないから」


私は少しむっとした。

「私、そんなに傲慢に見えますか?」


「見えるわ」

即答。しかも、柔らかく微笑んだまま。


「でも、それは悪いことじゃないの。

 強くなるために必要な自信や誇りを持っている証拠だから。

 ただ、それだけでは……美徳は手の内に収まらない」


焚き火がパチ、と音を立てる。


その音に紛れるように、セリーヌは少し声を落とした。


「私は、あなたが“自分一人ではどうにもならない”状況に直面する瞬間を見てみたいの。

 そのとき、あなたが誰かに手を伸ばすことができたら……きっと謙虚は芽吹くわ」


彼女はそう言うと、またいつもの優しい仲間の顔に戻り、ルリとクラウディアの方へ軽く手を振って歩いていった。


私は手元のカップを見つめながら、その言葉が静かに胸に沈んでいくのを感じていた。



***


翌朝。

街道を外れ、森の中を抜けて次の街を目指していたときだった。


「……嫌な気配がする」


ルリが立ち止まり、耳を澄ます。

私も周囲に意識を集中させる──が、その瞬間、視界がぐらりと揺れた。

足元の感覚が消え、体がふわりと浮く。


「サティ!」

誰かの叫びと同時に、私は地面に崩れ落ちた。

頭が回らない。力が入らない。魔力の流れが……止まってる?


「毒……?」

クラウディアの声が遠くで響く。


視界の端で、黒ずんだ小さな矢が草むらに突き刺さっているのが見えた。


私は立ち上がろうとしたが、膝が笑って動かない。


──こんな、無力感。

普段なら一瞬で片づけられる小競り合いすら、今はどうにもならない。


「……私が……やらなきゃ……」

口に出した瞬間、セリーヌが私の肩に手を置いた。


「いいえ。今は任せなさい」

彼女の声は静かで、しかし揺るぎなかった。


「あなたは強い。でも、今は私たちが強くなる番よ」


ルリが前へ飛び出し、クラウディアが後方を固める。


セリーヌは私を支えながら、敵の動きを冷静に見極めていた。


私はただ、彼女の肩を借り、仲間の背中を見守ることしかできなかった。


──これが、セリーヌの言っていた「自分一人ではどうにもならない状況」なのか。


戦いは短く、しかし確実に終わった。


敵の気配が消えた森の中で、私は悔しさと……妙な安堵を覚えていた。


「助けられるのも、悪くないでしょう?」

セリーヌはそう言って微笑み、私の額に触れた。


「これも、美徳への一歩よ」


私は返す言葉を見つけられず、ただ小さく頷いた。

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