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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第23章 謙虚の継承者・セリーヌ編

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【200話記念SS】クラウディアの独白

静かな夜だった。


風もなく、空には雲ひとつない。星々が、まるで遠い記憶を静かに照らすように、冷たくもやさしく、世界を包んでいた。


その中で、ひとつの気配が、影に紛れるように佇んでいた。


修道都市アシュレーンを離れて、もうどれほど経つだろう。


表立って彼女の前に現れることはない。


ただ、影のように、そっと後ろから見守っているだけ。


その存在の名は──クラウディア。

《美徳:忍耐》の継承者にして、ある少女の“歩み”を静かに見つめ続ける者。


そして今、誰もいない高台に立ち、ただひとり呟いた。



***


「……彼女は、歩き続けている。折れることなく、迷いながら、それでも止まらずに」


闇の中に響く、透き通った声。


「傲慢と対峙し、憤怒を越え、暴食を呑み込んだ。……普通なら、とっくに潰れていたはずよ。

でも彼女は、何度も立ち上がった。誰かのために。自分の意志で」


クラウディアの金糸の髪が、夜風にふわりと揺れた。


「ねえ、イザーク。あなたはまだ試練を与えるつもりはないの?」


問いかけは、夜空に溶けていく。

返事はない。けれど、それでいい。

イザークが何を見ているか、彼女は知っている。


「“勤勉”は、ただの努力ではない。学ぶこと、気づくこと、積み重ねてゆく強さ……。

でも、“忍耐”もまた、時間の中でしか育たない。

だから私は、待つわ。……彼女が、すべてを受け入れられるその日まで」


クラウディアは目を閉じた。


瞼の裏に浮かぶのは、あの少女───サティ・フライデーの横顔。


静かな瞳で前を見つめ、時に恐れ、時に怒り、時に涙を堪えながらも、それでも誰かのために立ち続けようとする、あの背中。


「あなたはまだ、“忍耐”を手にしていない。

でも、それでいい。……今のあなたは、きっと“忍耐”という美徳の意味を、生きながら知っている最中なのだから」


遠くで、焚き火の明かりが揺れていた。

サティの一行が小さな野営を敷いているのだろう。


彼女はそこへは近づかない。

ただ、静かに見守るだけ。


たとえ気付かれなくとも、名を呼ばれなくとも───この歩みの先にある、真の覚醒を信じている。


だから、クラウディアはそっと祈るように、呟いた。


「進みなさい、サティ。あなたの歩幅で、あなたの心で。

私たちは、きっとあなたの選択を祝福する。……その日が来るまでは、ただ、見守っているわ」


夜の帳が、また一段と深く降りた。


それでも、そこに灯る希望の光は、確かにあった。


──《忍耐》の継承者は、まだ名乗らない。

だがその眼差しは、ずっとあの少女の未来を見つめていた。

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