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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第23章 謙虚の継承者・セリーヌ編

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謙虚の継承者 ― セリーヌの静かな導き

「君がサティ・フライデーか」

 静かな書斎の奥で、本を閉じた青年――イザーク・フォルグレインが立ち上がった。


 その瞳は知性にあふれていながらも、どこか“寂しさ”を秘めていた。



***


 「大罪すべてを会得した。だが、現在所有している美徳のうち《勤勉》だけが未覚醒――」


 彼はサティの胸元にある紋章を見つめる。


 「君に課すのは、力では解けない問いだ」



***


 イザークが差し出したのは、一冊の本。

 だが、それは読めない。言語がバラバラで、暗号めいていた。


「この書を“読む”のが試練ではない。

 読むために、君自身の過去、歩み、知識、決断……その全てを問い直すことが“勤勉”の意味だ」



***


 サティは手に取る。


 次の瞬間、本の中から光があふれ、彼女の意識は虚空へと投げ出される。



***


精神領域――《知識の迷宮》


 石造りの回廊。どこまでも続く書架。


 空には言葉が浮かび、地面には計算式が刻まれている。


「ここは……私の知識が、問われてる……?」



***


 目の前に現れたのは“影のサティ”。


 かつて大罪を会得するまでの彼女の決断、その歪みを象徴する存在。


「お前は力を得ただけ。何も学んでいない」



***


「違う、私は……!」


 サティが叫ぶたびに、周囲の書架が崩れていく。


 それでも、彼女は歩く。


 一歩ずつ、手を伸ばし、崩れた言葉を拾い集め、迷宮の中心へと進んでいく。



***


「私は、何度でも選びなおす。力じゃなく、意思で。間違ったら、学び直す。

 それが、私の《勤勉》だ……!」



***


 光が差し込んだ。


 静かに書架が戻り、目の前の“影のサティ”が微笑む。


「ようやく……お前は、自分自身を読んだ」



***


 現実世界に戻ったサティの手の中で、解読不能だった本が文字を刻んでいく。



***


 イザークが静かに微笑む。


「これが、君自身の知識だ。答えはいつも、自分の中にある」



***



カザルスの街を抜け、サティたちは郊外の森を歩いていた。


 そこで彼女たちは、ひとりの少女と出会う。


 淡い緑の瞳に、淡い栗色の長い髪。


 白いローブを纏い、背筋を伸ばしながらも柔らかな微笑みをたたえていた。



***


「はじめまして。私はセリーヌ・アルヴァ=リヴァティア。あなたがサティ・フライデー……」


 彼女の声は優しく、しかしどこか芯の強さがあった。


「《謙虚》の継承者として、あなたの歩みを見守ってきました」



***


 ルリが警戒するように身構えたが、サティは静かに首を傾げる。


 「どうして私のことを?」


「美徳の継承者は皆、互いの成長と調和を願うものです。あなたが多くの“罪”を背負うからこそ、私はあなたに触れ合いたかった」



***


 セリーヌは決して傲慢な態度を取らず、謙虚に自身を低く置くが、言葉には確かな説得力があった。


「私たち美徳は、あなたが歪みを乗り越え、真の調和を得られるように助けたいだけ」



***


 ミネルバが静かに微笑みながら言った。


 「ようやく、もう一人の“美徳”が揃ったわね」



***


 サティは胸元の紋章に手を触れた。


 「これからも、よろしくお願いします」


 セリーヌも穏やかに頷いた。



***


 こうして、新たな仲間が静かに加わった。


 謙虚の継承者セリーヌは、これからの旅路に静かな光を灯す存在となる───。

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