死神
サティが静かに夜のダンジョンへと足を踏み入れた頃——
別の場所では、二組のAランクパーティが同じダンジョンに挑んでいた。
その名も、《白金の盾》と《黄金の剣》。
「俺たちが先にボスを倒してやるからな!」
挑発的に声を張るのは、《黄金の剣》の戦士、マルト。
対する《白金の盾》は落ち着いた様子で応じる。
「気にすることないわ、リーダー」
「私たちは私たちのペースで行こう」
そのまま彼らは、ダンジョンの最奥へと足を進めていく。
途中、重厚な扉の前で立ち止まる。微かに魔力の結界が漂っていた。
「ん? 扉が……開かねぇぞ?」
「誰かが先に入ってる?」
《白金の盾》のリーダー・ジェイルはそう判断し、仲間たちと待機を選んだ。
30分が過ぎた頃、背後から聞き覚えのある声が飛ぶ。
「おい、何してんだ?」
振り返ると、そこには《黄金の剣》の全員が揃っていた。
「……は?」
「お前ら、中にいるんじゃなかったのかよ!」
困惑と混乱。
両者が状況を確認するうち、明らかになる。
——この扉の向こうにいるのは、どちらのパーティでもない。
確認のため、慎重に扉を開けると――
そこには、倒れ伏す巨大なアースドラゴンと、その上に立つ“黒い影”。
マントを羽織り、顔を隠し、ただ沈黙のまま立ち尽くすその姿。
「……あれは、《死神》……?」
誰かがそうつぶやいた。
「最近ギルドで噂されてる。正体不明、スキルも流派も不明、戦法も規格外……」
「人間……なのか?」
「さあな。ギルドの登録記録にも載ってない。まるで幽霊みたいな存在だ」
その異様な光景に、誰もが言葉を失った。
「……アイツ、一体何者だ?」
ギルドに報告しようと、両パーティは急ぎ本部へ戻る。
こうして、《アースドラゴン討伐完了報告》とともに、《死神捜索依頼》が提出されるのだった。
ギルドがその正体を探り始めたのは、翌日のこと――。
* * *
一方その頃。
「ふぁ~あ……やっぱり、早く帰れるって最高……!」
自宅のソファに寝転び、気だるげに伸びをするサティ・フライデー。
ゆるくまとめた髪、軽装のまま頬杖をつく彼女の表情は、どこまでも穏やかだった。
「ふふっ、ダンジョン攻略って言っても、あれくらいなら疲れないわね。……よし、明日も頑張ろっと」
サティの唇に浮かぶ小さな微笑。
その素顔を、誰も知らない。
——誰も、“死神”の正体が、ギルドの受付嬢であるとは思っていなかった。