死神
「ここがS級ダンジョン《堕天の聖域》」
サティはそう呟くとボス討伐をするため最深部を目指す。
「冒険者も攻略に来るらしいから早く終わらせないと」
サティは急いでダンジョン最深部に向けて攻略を始めた。
***
しばらく移動していると大きな扉のようなものが見えてきた。
「ここがボス部屋?」
深呼吸した後で私は扉を開ける。
「客人とは珍しい」
部屋に入ると少女から声をかけられる。
「まさか、ダンジョンのヌシが人間だなんて」
「正確に言うと人間ではない」
目の前の相手は不敵な笑みを浮かべながら話しかけてきた。
「ようこそ。《堕天の聖域》へ。我が名はここのヌシ・ミエラ。六大魔王が一人である。お主の名前なんじゃ?」
「なんで魔王がダンジョンにいるのよ」
「なんでだろうな。まぁ、そんなことより久しぶりの客人じゃ、もてなさなければ」
「受付嬢、サティ・フライデー。ダンジョン攻略のため、討伐させてもらう」
「受付嬢とは滑稽だな。人は魔王に勝てん。それが自然の摂理じゃ」
「そんな摂理ぶち壊してやる」
「やれるものならやってみることじゃ」
ミエラは私が想像していたよりも強かった。
「あなた、強いのね」
「魔王じゃからな」
「あなたは強い。良かった冒険者にならない?」
「冒険者?そんなのになる.....わけ」
私は彼女の言葉を遮るように剣を突き刺した。
「なかなか、やるではないか」
「第九位階転生魔術」
「何をする気じゃ?」
「あなたはもうすぐ事切れる。だけど命は無駄に出来ない。人間になると言いなさい」
「.....確かに、こんな所で一生いるよりかは人間になった方がマシかもしれないな」
「転生魔術。使うと魔力がほとんど無くなるのね」
「お主」
どうやら目覚めたらしい。
「これが敗れた私か」
「残像魔法よ」
もうボスは討伐した。誰かが入ってきてもおかしくない。
「あなたは、ラミルそう名のりなさい」
「確かに今まで通りには名のれんしな」
「ダンジョンに籠ってばかりで外のことなんか分からないだろうから旅に出てみたらどう?」
「そうすることにしよう」
そう言い放つと彼女は外に出て行った。
私はボスが討伐されたことを誰かに確認してもらわないといけないため、しばらく残ることにした。
***
サティが戦闘を始めた頃。
同じダンジョンを《白金の盾》《黄金の剣》が攻略を始めていた。
入口にいるのは《白金の盾》
「俺たちがアイツらより先にボスを倒してやるからな!」
「急ぐな。未攻略なんだから、そう簡単に攻略できるはずがない」
そうい言うとアタッカーの男は先に歩き出す。
「気にすることないぜ、リーダー。俺たちは俺たちのペースで行こう」
そのまま彼らは、ダンジョンの最奥へと足を進めていく。
途中、重厚な扉の前で立ち止まる。微かに魔力の結界が漂っていた。
「ん? 扉が……開かねぇぞ?」
「誰かが先に入ってる?」
「《黄金の剣》でも入ってるんだろ」
《白金の盾》のリーダー・ジェイルはそう判断し、仲間たちと待機を選んだ。
30分が過ぎた頃、背後から聞き覚えのある声が飛ぶ。
「おい、何してんだ?」
振り返ると、そこには《黄金の剣》がいた。
「……は?」
「お前ら、中にいるんじゃなかったのかよ!」
困惑と混乱。
両者が状況を確認するうち、明らかになる。
──この扉の向こうにいるのは、どちらのパーティでもない。
確認のため、慎重に扉を開けると──
そこには、“人の影”のようなものが2つ見えた。
マントを羽織り、顔を隠し、ただ沈黙のまま立ち尽くすその姿。
「……あれは、《死神》……?」
誰かがそうつぶやいた。
「最近ギルドで噂されてる。正体不明、スキルも流派も不明、戦法も規格外……」
「人間……なのか?」
「さあな。ギルドの登録記録にも載ってない。まるで幽霊みたいな存在だ」
その異様な光景に、誰もが言葉を失った。
「……アイツ、一体何者だ?」
ギルドに報告しようと、両パーティは急ぎ本部へ戻る。
こうして、《ダンジョン攻略完了報告》とともに、《死神捜索依頼》が提出されるのだった。
ギルドがその正体を探り始めたのは、翌日のこと──。
* * *
一方その頃。
「ふぁ~あ……やっぱり、早く帰れるって最高……!」
自宅のソファに寝転び、気だるげに伸びをするサティ。
ゆるくまとめた髪、軽装のまま頬杖をつく彼女の表情は、どこまでも穏やかだった。
「ふふっ、ダンジョン攻略って言っても、あれくらいなら疲れないわね。……よし、明日も頑張ろっと」
サティの唇に浮かぶ小さな微笑。
その素顔を、誰も知らない。
──誰も、“死神”の正体が、ギルドの受付嬢であるとは思っていなかった。




