大地を旅する者たち ― 節目と始まりの狭間で
夜の焚き火が静かに揺れていた。
星が降るように瞬く空の下、サティたちは静かに体を休めていた。
瘴気に呑まれかけた少女・エルナは、まだ深く眠っている。
ミネルバが言うには、完全な瘴気の同化ではなく、“誰かの意思”によって引き起こされた一時的な暴走だったらしい。
「人工的な影の生成……だとすれば」
ルリが言葉を飲む。
「黒幕がいるってことよね」
ミネルバも頷く。
***
サティは焚き火を見つめたまま、小さく呟いた。
「……200日目、か」
「ん?」
ルリが振り返る。
「この旅に出てから、今日でちょうど200日目。だからなんとなく……」
「そういえばそんなに経ってるのね」
「正直、もっと昔から旅してる気がするわよ」
ミネルバが苦笑する。
***
── 旅のはじまり。
影の核との戦い。
封印された《大罪》との対峙。
そして、《美徳》たちとの出会い。
あまりにも濃密な日々だった。
***
サティは思い返す。
《憤怒》《傲慢》《暴食》《怠惰》《虚飾》《憂鬱》《嫉妬》《強欲》《色欲》
すべての“大罪”を手に入れたその代償に、彼女の中には確かな“歪み”も存在する。
けれど――
《勤勉》と《純潔》、《忍耐》が、その歪みを支えてくれている。
(そして次に向き合うべきは――)
***
「サティ。次の目的地、決まってる?」
ルリが問いかける。
サティは頷いた。
「《勤勉》を覚醒させるために継承者に会う。それが、次の目標」
「となると……やっぱり〈カザルス〉か」
「知識と労働の街。少し騒がしいけど、情報は集まりやすいわね」
ミネルバが口元に笑みを浮かべる。
***
そのとき、焚き火の奥───
誰にも見えぬ影が、月光の中で静かに一度だけ頷いた。
クラウディア。
忍耐の継承者は、その目でサティの成長を見届け続けている。
言葉も、気配も残さずに。
***
エルナが小さく寝返りを打つ。
サティはその髪をそっと撫でた。
「もう、あなたを“捨てられた影”なんて呼ばせない」
***
そして、朝が来る。
旅は続く。
大地を踏みしめながら───サティたちは、次なる試練へと歩き出す。




