揺るがぬ意志
対峙していた。
かつての“自分”───暴走寸前の影を抱えた、最も危うかった頃のサティと。
怒り、悲しみ、虚しさ、諦め───すべてがこの影の中に宿っていた。
「私を壊すのは、いつだって私自身だった」
影のサティは何も語らない。ただ、静かに睨み返す。
その沈黙は、かえってサティの心を抉ってくる。
***
時間だけが、ただ淡々と流れていく。
戦えない。逃げられない。叫ぶことも、走ることもできない。
“耐え続ける”ことだけが、この場で唯一許された行動。
***
(……怖い。壊れてしまいそうになる)
(けど、それでも)
サティは拳を握る。
(今の私はもう、ひとりじゃない)
ルリがいて、ミネルバがいて、クラウディアがこの試練を見届けている。
(そして何より、私自身が、もう逃げないと決めた)
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やがて影が動いた。
サティの目の前に立ち、その手をすっと差し出してくる。
その意味を、サティは悟った。
──逃げるのではなく、否定するのでもなく。
受け入れること。
***
「そうね……。あなたも、私なのよね」
サティは静かに、その手を取った。
次の瞬間、影は柔らかな光に変わり、サティの中へと溶けていく。
苦しみも怒りもすべてが昇華されていく───まるで、美徳に変わっていくように。
***
封印空間の石床がゆっくりと開かれ、光の柱が差し込んだ。
クラウディアの声が響く。
「試練、完遂」
「あなたの中には、既に《忍耐》が根づいていた。私の役目は、それを証明することだったのです」
***
サティが歩み出ると、クラウディアはそっと額に手をかざす。
次の瞬間、淡い光の紋章が、サティの胸に刻まれた。
それは、確かに《忍耐》を継ぐ者の証だった。
***
「ありがとう、クラウディア」
サティは微笑みながら、そう呟いた。
静かな力が、確かに彼女の中で根を張っていた。




