静謐なる時の牢獄
大聖堂の奥、光も音も届かぬ封印の間へとサティは案内された。
クラウディアは何も語らず、ただ静かにその扉を開ける。
「この試練は、誰かと戦うものではありません」
クラウディアの声が、重く、しかし優しく響いた。
「あなた自身が、“時間”とどう向き合うか。それが《忍耐》の本質です」
***
扉が閉じられると、そこはまさに“何も起きない空間”だった。
敵もいなければ、罠もない。道もなければ、出口もない。
ただ、時だけが流れていた。
***
(……これは、精神を削る試練ね)
怠惰を会得したサティだからこそ分かる─“何もない時間”の恐ろしさを。
逃げることも、誤魔化すこともできない。
力を使う理由すら与えられない。
(動くな、焦るな。私は……耐える)
***
サティは目を閉じ、静かに座る。
記憶の中の声が、微かに蘇る。
《力とは、感情であり、意思である》
(私が会得してきた《大罪》は、すべて強い“衝動”だった)
(でも、“耐える”ことだけは、衝動では得られない)
***
どれほどの時が経ったのか、もうわからない。
だがそのとき──空間に小さな振動が走った。
「……来た、か」
白い影が現れる。
それは、過去のサティ自身─暴走寸前の、かつて“影”と呼ばれかけた姿。
「お前が私を、試すというの?」
白い影は何も答えず、ただ静かに近づいてくる。
否──“怒り”も“怠惰”も“傲慢”も、すべてを纏った“自分”そのものだ。
***
「いいわ。なら私は、“ここ”に立ち続ける」
恐れず、拒まず、ただ“その自分”を見つめ続ける。
それこそが、《忍耐》の証なのだと信じて。
***
外の大聖堂で、クラウディアは目を伏せて呟いた。
「サティ・フライデー……あなたが真に“耐えられる者”か。見届けさせてもらいます」




