対価の在り処
戦いを終えた後、森の奥深くでひときわ強い魔力の残滓を感じ取ったサティたちは、静かにその場を歩き出した。
「瘴気の核は消滅したけど、あの反応……おそらく、“歪んだ残響”が残ってるわ」
ミネルバの声は慎重だった。
「大罪を扱う私たちが近づくほどに、影は共鳴する」
サティは頷き、ルリと目を合わせた。
「でも、それを無視して進むわけにはいかない」
***
森の奥にぽっかりと空いた空間。そこには──封印されたような石碑があった。
「これは……古代の“対価の記憶”よ」ミネルバがそっと手をかざす。
「かつて、大罪の力を持つ者が美徳に出会い、贖いを求めてここで試練を受けた跡」
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サティは石碑に手を伸ばす。すると、ふと胸の紋章がうっすらと光った。
──怠惰、暴食、傲慢……
それらの力を使うことで、確かにサティは幾多の危機を乗り越えてきた。
だが同時に、その力には小さな代償が積み重なっていたのかもしれない。
「力を使えば使うほど、“正しさ”の軸がぶれていく感じがするの」
呟くサティに、ミネルバが静かに言った。
「だからこそ、美徳がある。大罪の力を抑えるためじゃない。共に在るためのものよ」
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ルリは優しく微笑んだ。
「次は《忍耐》、だったよね。きっとどこかで、私たちを待ってる」
「ええ。そのためにも、この森を抜けて次の地へ行かなくちゃ」
***
三人は再び歩き出した。
大罪と美徳──そのすべてを受け入れて、前へ進むために。




