忍耐の試練
ヴァローナ渓谷の奥深く、空はどんよりとした灰色に覆われていた。
サティとルリは険しい岩肌の間を慎重に進んでいる。
「この辺りから、空気が変わってきたわね」
ルリが言う。
「まるで、時間が止まっているみたい……」
「忍耐の力が残る場所だからかもしれない」
サティはそう答え、ゆっくりと前を見据えた。
しばらく歩くと、広場に辿り着く。そこには、古びた石碑が立っていた。
表面には擦れて読みづらくなった文字が刻まれている。
「読める?」ルリが聞く。
サティはじっと文字を見つめ、慎重に声に出した。
「『己を捨てて、己を得よ』……意味深だわ」
その時、背後から低い声が響いた。
「そこに立つ者よ。忍耐とは何か、知りたくはないか?」
振り返ると、そこには老人が立っていた。
彼は白髪交じりの長い髭をたくわえ、瞳は鋭く光っている。
「私はこの地の守護者だ。あなたが忍耐の証を求めるなら、試練を受けてもらう」
サティは決意の表情で頷いた。
「お願いします」
***
試練は、精神と肉体の両方を試すものだった。
深い闇の洞窟で、サティは自分の内面と向き合う。
《怠惰》の囁きが何度も襲いかかり、休むことを誘惑する。
だが彼女は屈しなかった。
「私は逃げない……私の罪も、美徳も、全部抱きしめる」
光が差し込み、洞窟の闇を切り裂いた。
***
一方、ルリは洞窟の入口で静かに祈りを捧げていた。
「サティ、あなたならきっと乗り越えられる……」




