座り続ける男
村の外れの古い橋のそばで、サティとルリは一人の男と出会った。
男はうつむき、ずっと橋の欄干に寄りかかって座り続けている。
「……何をしているのだろう?」
ルリが不思議そうに声をかけると、男はゆっくり顔を上げた。
その目はどこか遠くを見ているようで、疲れきっていた。
「私は、ここでずっと座っている」
その言葉に、サティは眉をひそめた。
「なぜ?」
男は苦笑し、答えた。
「待っているのだ。誰かが、迎えに来るのを」
ルリが首をかしげる。
「でも、それは───長くない?」
男は静かに頷いた。
「そうだ。何年もだ。けれど、それでも待つことをやめられない」
サティはふと、心の奥がざわつくのを感じた。
(これが、《忍耐》の一端……なのかもしれない)
男の話を聞くうちに、サティの内側にある《怠惰》が、揺れ動きはじめる。
「力を制御することは難しい。
時に、力に負けてしまいそうになる。そういう時は……待つことしかできない」
男の言葉が、サティの胸に響いた。
「あなたは、何を待っているのですか?」
サティの問いに、男は少し間を置いて答えた。
「赦しを。自分自身からの赦しを」
その答えに、サティは言葉を失った。
しばらく沈黙が続き、やがて男は立ち上がった。
「では、失礼する。あなたたちも、良い旅を」
そう言って男は歩き去った。
その背中を見送る二人。
「待つこと。忍耐……簡単そうに思えて、すごく重い」
ルリがつぶやく。
「そうね。でも、これから私が学ばなきゃいけないこと」
サティはそう言って、再び歩き出した。
──忍耐とは、“ただ座り続けること”だけではない。
“自分自身と向き合い、赦し、歩み続けること”なのだと。




