表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第20章 神殿の残響編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

180/264

書を継ぐ者

 地下神殿から地上へ戻ると、

 アークゲイル高原には、すでに夕日が差し込んでいた。


 風は静かで、冷たく、けれどどこか安らぎをもたらす。


「……もう終わったの?」


 ルリが問いかける。


「うん。もう、《暴食》に飲まれることはない。自分がその力をどう扱うか、ちゃんと決めた」


 そう答えたサティの瞳には、先ほどよりも確かな“光”があった。


 けれどそのとき───


 風に乗って、草原の向こうから、足音が近づいてくる。


 現れたのは、フードを深くかぶった旅装の女性だった。


 その背には、巻物と革の本をいくつも背負っている。


「……やっと会えた」


 女性は、サティを見て微笑んだ。


「あなたが、《罪と美徳の均衡者》。──私の書に記された通りね」


 サティとルリは構えるが、女性に敵意は感じられない。


「わたしは《綴り手》の一族、エルナ。

 過去と記憶、そして未来の系譜を継ぐ者。あなたの歩みをずっと追っていたの」


「綴り手……?」


「あなたの中には、《大罪》と《美徳》が共にある。

 それはかつて一度だけ、この大陸に現れた“均衡の担い手”と同じ」


 ルリが目を見張った。


「そんな人がいたの?」


「ええ。記録は断片的だけど、残ってる。

 その者は《慈愛》と《寛容》をもって《暴食》と《憤怒》を封じたとされているわ」


 サティは、エルナの言葉を静かに受け止める。


「……つまり、私の歩みは“今”だけのものじゃない。

 誰かの歩みを継いでるってこと」


 エルナはうなずくと、懐から一冊の本を差し出した。


 それは古びた写本だったが、確かに温かい気配を持っていた。


「この中に、“美徳の共鳴”に関する記述があるわ。

 今のあなたなら、次の“兆し”がわかるはず」


 サティはその本を受け取り、ページをめくる。


 そこには───


 > “勤勉の先に、忍耐は生まれる。

 > 怠惰に飲まれし時、その心を繋ぐ光は、耐える者に宿る”


 サティの内に、微かな震えが走った。


 (《忍耐》……)


 《怠惰》を制御するために、まだ足りていないもの。

 それが、この先に見える“次の美徳”。


 サティは顔を上げる。


「……ありがとう。あなたのおかげで、また一歩見えた気がする」


 エルナは穏やかに微笑んだ。


「まだ見ぬ“徳”と“罪”の記録は、必ずどこかに残っている。

 あなたが歩く限り、それを綴る者もまた、傍らにいるわ」


 それだけ言って、彼女は背を向け、草原の彼方へと消えていった。


 サティはしばらくその背を見送ったあと、ゆっくりと写本を閉じ、ルリに言った。


「次は……《忍耐》ね」


「うん。次もきっと、乗り越えられるよ、サティなら」


 そして、ふたりは歩き出す。


 次なる旅路へ───

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ