表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第20章 神殿の残響編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

179/265

暴食の記憶

 草をかき分け、朽ちた石畳の先へと降りていく。


 そこには、地面の裂け目に沿って続く地下通路があった。


 石は古く、苔と乾いた砂に覆われ、踏みしめるたびに小さな音が響いた。


 ルリはランタンを掲げ、サティの背に続く。


「こんな場所……誰にも気づかれないわけね」


「そうね。でも、私にはわかる。……この下に、あの記憶が残ってる」


 サティは胸に手を当てた。


 《暴食》のスキルは、いまも確かに自分の中にある。


 それは他の罪よりも“感情”に近く、心の奥に根を張っていた。


 静かに、空間が変わる。


 通路の先に広がったのは、巨大な円形の広間だった。


 天井は崩れ、中央には空っぽの祭壇。


 それを囲むように、壁一面に古代文字が刻まれている。


 そして───


 広間に足を踏み入れた瞬間。

 空気が“熱”を孕んだ。


「……!」


 何かが、サティの内に“繋がる”。


 視界がぐらりと歪み、気づけば彼女は、かつて《暴食》を会得した“あの場所”の記憶に立っていた。


 ───これは幻覚でも、夢でもない。

 《暴食》の力が引き起こす、内面との対話。


 目の前に現れたのは、“もう一人のサティ”。


 けれどその瞳は暗く、どこまでも貪るような黒。


「あなた、また“思い出しに来た”の?」


 黒いサティは笑う。


「どうしてそんなに律儀なの? 力を得たなら、それで終わりじゃない。

 美徳なんて後付け。どうせまた、罪に頼るくせに」


「……違う。私は、使うために得たんじゃない。

  責任を持つために、手にしたの」


「嘘。最初に暴食を使った時、嬉しかったくせに。

  すべてを吸収して、敵を喰らって、強くなった自分が――誇らしかった」


 黒いサティの声が、心に食い込んでくる。


 (たしかに……私は、喜んでた)


 (敵を喰らい、力にして、生き延びる自分を)


 けれど――


「……私は、後悔してる」


 サティは、はっきりと答えた。


「暴食の力に頼りすぎた過去も、誇ったことも、全部。

  でも、後悔は“忘れるため”じゃない。“選び直すため”にある」


 その言葉に、黒いサティの表情が、ゆっくりと揺らいだ。


「……ふふ。そうやって、また“理屈”で飲み込もうとするのね。

  でも、それでいい。──あんたがそれを貫くなら、私もついていってやる」


 次の瞬間、黒いサティは煙のように消えた。


 広間の現実に戻る。

 ルリが、少し心配そうに見ていた。


「……戻ってきた?」


「うん。大丈夫。ちょっとだけ、自分と話してたの」


 サティはふっと息を吐き、祭壇に近づく。

 その足元に、小さな石板が落ちていた。


 拾い上げると、そこにはかすれた文字で、こう記されていた。


 > “飢えは、力ではなく、問いだ。

 > 何を欲し、何を手にし、何を満たすのか”


 サティは目を閉じる。


 力を持つということは、自分に問い続けること。


 だからこそ───彼女は歩みを止めない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ