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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第20章 神殿の残響編

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喰らう地を越えて

 アークゲイル高原───


 そこはかつて、《暴食》にまつわる逸話が残された地。


 今ではすでに荒れ果て、風と草原が広がるだけの静寂な土地となっていた。


「……何も残ってないように見えるけど」


 ルリがそうつぶやいたとき、サティは小さく首を横に振る。


「ここには、痕跡があるわ。“喰らわれた”あとの気配」


 かつてこの地にあったという神殿──その遺構は、草に埋もれ、跡形もない。


 けれど、サティの中に宿る《暴食》は、そこにわずかな共鳴を感じていた。


 (懐かしいような……でも、遠い感覚)


 すでに《暴食》は、自分の中にある。


 サティは、その力を制御し、制御されながら、ここまで歩んできた。


 今、この地を訪れたのは、“暴食の記憶”と向き合うためだった。


「……たぶん、この場所では“会得した後”だからこそ見えるものがある」


 彼女がそう言うと、ルリはわずかに目を細めた。


「思い出すために来たってこと?」


「うん、そうかもしれない」


 風が吹く。

 草原の音が、遠くで囁くようにざわめいた。


 かつて、神の名を刻んだという“喰らう神殿”。


 《暴食》という大罪が、人を、街を、記憶をさえ貪り尽くしたという伝承。


「……でも、今の私は違うわ」


 サティはそっと胸に手を置いた。

 そこには、《勤勉》と《純潔》──二つの美徳が、彼女の心を支えている。


 かつてなら、暴食の力に飲まれ、抑えられない衝動に苛まれていたかもしれない。


 けれど今は、思考する力がある。選ぶ意志がある。


「力を持つことは、もう恐れない。

  けど……だからこそ、自分がどうそれを“使うか”を考えなきゃいけない」


 足元の地面が、やわらかく沈む。


 彼女が一歩踏み出したその先に、崩れかけた石畳のようなものが、草の隙間から顔を出していた。


「……やっぱり、ここに“何か”あるのね」


 ルリが軽くうなずく。


「行ってみよう。たぶん、あたしたちが知らなきゃいけないことが───この先にある」


 二人は、風の吹き抜ける高原をさらに奥へと進む。


 そこにあるのは、かつて暴食が“すべてを喰らった”記憶。


 そして、いまやその力を手にした者として、どう向き合っていくかの選択。


 サティの歩みは迷いなく、静かに、けれど確かに続いていた。

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