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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第19章 レクヴァリア編

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全ての罪と、目覚めた二つの光

 封書庫の深奥。


 かつては思考すら届かなかったその場所に、静かな光が灯っていた。


 アムネリアの導きで、サティとルリは“記録室”と呼ばれる空間へと足を踏み入れる。


 そこには――膨大な数の巻物と書簡。


 すべてが、消えかけたこの都市“レクヴァリア”の過去を語っていた。


「……あなたが全て、写し直したの?」


 サティの問いに、アムネリアは微笑む。


「ええ。記録者として……いや、“勤勉なる者”としての、ささやかな務めです」


 彼女の言葉に、サティはふと胸をおさえた。

 そこには確かに、《勤勉》の光が宿っていた。


 (私の中には、九つの《大罪》がある───)


 傲慢・嫉妬・憤怒・怠惰・強欲・暴食・色欲───

 そして、《虚飾》《憂鬱》。


 どれも、強大で、危険で、扱えば扱うほど自分を蝕む。


 だが───


(今は違う。美徳がある。制御のための“光”が)


 サティの内で、大罪と美徳が拮抗している。


 それはまるで、相反する力が、彼女の中で静かに均衡を取ろうとしているかのようだった。


 アムネリアが机の上に、一枚の古地図を広げる。


「あなたがこれから向かうべき場所は、“アークゲイル高原”」


「……高原?」


 ルリが聞き返すと、アムネリアはうなずいた。


「そこには、かつて《暴食》の力を持つ“喰らう神殿”が存在していたとされます。

 いまも、その地下に“核の残響”が眠っているかもしれません」


 サティの目が鋭くなる。


「影の核が……まだそこに」


「ええ。そして、あなたの“美徳”が目覚めた今なら、核に近づいても飲み込まれないでしょう」


 ルリが息を呑んだ。


「でもそれって、まさか……次の戦いが、また来るってこと?」


「……うん。今度は、“暴食”が暴れるかもしれない。けど───」


 サティは笑った。


 「私には《勤勉》がある。怠惰に沈まず、前へ進む意思がある。

 だから、負けないわ」


 アムネリアは深くうなずく。


「忘れないでください。罪に抗うのではなく、罪と向き合い、光で包み込むのです。

 あなたはそれができる、“均衡を持つ者”ですから」


 サティは目を閉じ、全ての力を感じた。


 《九つの大罪》と、目覚めた《純潔》と《勤勉》。

 均衡はまだ脆く、不安定だ。

 けれど───


 (私は歩ける。どんなに罪に染まっても、美徳を灯して)


 そして彼女は、再び歩き出す。


 次なる地───“アークゲイル高原”へ。


 旅路は終わらない。


 それは、罪と美徳の全てを内に抱いた少女が歩む、終わりなき均衡の物語。

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