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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第19章 レクヴァリア編

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覚醒 ― 勤勉は思考に光を灯す

 影は音もなく迫ってきた。


 黒く、粘つくような気配。

 それは怠惰の残滓──サティの内にある“力”が外部に漏れ出し、形を持ったものだった。


 「ルリ、下がってて!」


 「っ、でも──!」


 「これは私の内側の問題。……乗り越えなきゃ、私じゃなくなる」


 ルリが戸惑いながらも、数歩後退する。


 影が放つ瘴気は、精神を麻痺させる。


 考えることを止めさせ、ただ、そこに“在る”だけの存在へと変える力──まさしく怠惰の権化。


 サティは、心の中で自身に問う。


 (私は……怠惰に呑まれてまで、生きたいの?)


 (答えは──違う)


 考える。

 感じる。

 進み続ける。


 それが、サティ・フライデーであることの証明だった。


 「──私は、止まらない!」


 サティが手をかざす。


 掌から放たれるのは、白金の輝き。


 《純潔》の光が影を払い、《大罪》の暴走を束ねる。


 だが、それだけでは足りない。


 《怠惰》は、今まさに彼女自身の思考を“静寂”へと閉じ込めようとしていた。


 そのとき。


 心の深奥に、ひとつの“光”が灯った。


 《思考は、ただ燃え続ける火である》

 《怠惰がその火を覆うなら─勤勉は、薪となる》


 光が拡がる。


 サティの脳裏に、本のページが次々と開かれていく感覚があった。


 かつて封書庫で読んだ記録。記憶の断片。問い続けた日々。


 それらすべてが、彼女の“意志”の火に変わっていく。


 そして───


 「来なさい、《勤勉》……!」


 叫んだ瞬間、彼女の身体が光に包まれる。


 まばゆい輝きが爆ぜた。


 封書庫の空間が震え、怠惰の影がその場で焼き尽くされていく。


 サティの瞳が、冴えた光を宿した。

 沈黙は消えた。

 思考は目覚めた。


 ──《七つの美徳:勤勉》獲得・未覚醒。


「私は、自分の思考を手放さない。

 たとえどんな代償を払っても――“考える”ことをやめないわ」


 静かな言葉は、封書庫の奥まで響いた。


 そして、全てが静まり返った空間の中──


 アムネリアが、どこか誇らしげに微笑んだ。


「……その覚悟こそが、勤勉。

 思考の火を絶やさぬ者に、美徳は微笑むのです」


 ルリが、安堵の息を吐く。


「サティ……! 戻ってきたんだね」


 サティは微笑んだ。


「うん。ちょっとだけ、眠くなりかけたけどね」


 二人は、光の残滓が漂う封書庫の中心に立ち、

新たな《美徳》とともに、再び歩き出す。

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