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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第19章 レクヴァリア編

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迷宮の最奥にて ― 勤勉の光、揺らぎて

 思考の迷宮は、静かに形を変え続けていた。


 一つの問いを終えるたびに、本棚の列が入れ替わり、新たな分岐が現れる。


 そして今、サティの目の前には五冊の本が浮かんでいた。


 そのどれもが、見た目は酷似している。

 違いは、文章の細部、語尾、表現の一部だけ。


 《第二の試問:真なる記録を選べ。観察と記憶の力をもって》


「……これは、“反復”の試験」


 サティはつぶやき、浮かぶ本の一冊を取り、ゆっくりと読み始めた。


 内容は、かつてどこかの都市で起きた《記録の消失》に関する調査報告。


 文体は硬く、情報量も多い。


 (これは……初読で覚えきれる内容じゃない)


 だが、読まなければ先へ進めない。


 “勤勉”とは、繰り返し、観察し、考え抜く力。


 サティは静かに目を閉じ、一冊目の内容を頭の中で反芻した。


 ……だが。


 (……おかしい)


 脳裏に、明確な“抜け”がある。

 文章の一部が、思い出せない。

 読んだはずの文が、なぜかぼやけている。


「サティ?」


 ルリが心配そうに声をかけた。


 サティは無理に笑う。


「……平気。ただ、少し……思い出すのが難しくて」


 だが彼女自身、気づいていた。


 ───これは、《怠惰》の代償。


 怠惰の力を使えば使うほど、精神が鈍化し、記憶が溶け落ちていく。


 それは、もはや避けられない事実だった。


 (……違う。こんなところで止まっていられない)


 再び本に向き合い、読み直す。

 何度も、繰り返し、繰り返し。


 そのたびに、記憶がわずかに定着していく。

 思考の霧が、ほんの少しだけ晴れていく。


 やがて彼女は、五冊のうち一冊を選び、手をかけた。


 選んだ本が、ふわりと輝き、他の四冊が霧のように消えていく。


 ──《正答。観察と記憶の力、確認》──


 同時に、サティの手のひらに、温かな光が宿った。


 (これは……)


 微かに、しかし確かに。


 七つの美徳のひとつ、《勤勉》がその姿を見せかけた。


「もう少し……あと一歩」


 サティは呟いた。


 その時だった。


「サティ!」


 ルリの叫び声と同時に、背後の空間が音もなく裂けた。


 そこから現れたのは、黒衣の影──怠惰の残滓が具現化したような存在。


「影の核……まだ、ここに残ってたのね」


 サティはすぐに体勢を取った。


 試練はまだ終わっていない。


 だが、ここで逃げれば、全てが無意味になる。


 《怠惰》に引き込まれる前に、《勤勉》で自分を取り戻さなくてはならない。


「私は、止まらない……! 絶対に、立ち止まらない!」


 そして、光と影が再び交わる。


 次なる覚醒の瞬間が、すぐそこに迫っていた。

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