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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第19章 レクヴァリア編

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封書庫の試み ― 思考の迷宮

 アムネリアに案内され、サティとルリは書庫の奥へと進んだ。


 そこは、ひとつの“回廊”だった。


 無数の書物が壁のように積み上がり、空間そのものが巨大な迷宮のような形をしていた。


「ここは……?」


 サティが問いかけると、アムネリアは静かに答えた。


「《思考の迷宮》。ここにあるのは、記録ではなく“思考の流れ”そのもの。

 読もうとしなければ、何も現れない。進もうとしなければ、扉は開かない」


 まさに“勤勉”を体現するかのような空間。


 動かなければ何も得られず、

 考えなければ何もわからず、

 諦めれば、ただ“眠るだけ”になる。


 サティは一歩、迷宮の中へと足を踏み入れた。


 瞬間、景色が歪む。


 まるで、思考の海に沈んでいくかのように。


 ──あなたは、なぜ知ろうとするの?


 脳内に囁く声が響いた。


 怠惰の囁き。サティが幾度も耳にしてきた、“内なる影”の声だ。


 ──答えは手に入らないかもしれない。

 ──調べても、届かないかもしれない。

 ──それでも、なお進むの?


「……ええ、進むわ」


 サティは答える。迷いなく。


「答えが遠くても、私は“考え続ける”。

 思考を止めたら、私は……私じゃなくなるから」


 その瞬間、迷宮の壁にあった一冊の本が光を放ち、宙に浮かび上がった。


『第一の試問:意志をもって、問いを発せ』


 サティは、その本に手を伸ばし、問いかけた。


「この都市は、なぜ記録を失ったの?」


 ページが開き、光の文字が現れる。


 《記録を奪うものは、記憶に潜む。記憶を奪うものは、怠惰に潜む。

 だが、“書き記す者”がいる限り、都市は再び思考を紡ぐ。》


 ルリが小さく息を飲む。


「……サティ、今のって――」


「ええ。勤勉は、問い続ける心。

 それが、この試練の本質」


 サティの足が、再び前へ進む。


 光の本が一つ、また一つ、宙に浮かび始める。


 彼女の問いが、知の迷宮に火を灯していく。


 そしてその胸に、かすかに宿る光───

 《七つの美徳:勤勉》の気配が、確かに芽吹きはじめていた。

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