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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第19章 レクヴァリア編

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知の封書庫へ ― 怠惰の眠りに抗って

 都市の中央──“封書庫”と呼ばれる古い建物が、二人を待っていた。


 門は錆び、扉は歪み、看板すら剥がれかけていた。

 だが、サティには分かっていた。ここが、この都市で唯一《思考の灯火》が残る場所だと。


 「入るわよ。ルリ」


 「うん……なんか、この建物だけ空気が違う」


 封書庫の中に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。


 重かったはずの意識が、ほんの少しだけ晴れたように感じた。


 (……外とは、明らかに違う)


 書架が並び、無数の書物が埃に埋もれて眠っている。


 それでも、そこには“知識が息づく気配”があった。


 「誰か、いるわ」


 サティがつぶやいた直後、奥から微かな足音が聞こえた。


 現れたのは、一人の女性──年齢は不明。


 深い藍色の法衣に身を包み、瞳は本のように静かで深い。


「……ようこそ、知の封書庫へ」


 声に、澱みはなかった。


 この都市で初めて感じた、“目覚めた意志”を持つ人物だった。


「あなたが……記録の管理者?」


 サティの問いに、女性はうなずいた。


「私は“アムネリア”。封書庫の管理者です。

 この都市の記録を、かろうじて守り続けている者──そして、最後の“記録者”です」


 ルリが小さく驚きの声を漏らす。


「でも……レクヴァリアって、すでに記録がほとんど消えて……」


「ええ。だから私は、記すことすら忘れられた記録を、“記録し直す”役割に変わったのです」


 アムネリアの言葉に、サティは息を飲んだ。


 記録を失った世界。


 思考を止めた人々。


 そして、その中心にあるのが──《怠惰》。


 サティは拳を握った。


「私の中にある《怠惰》の力が、この都市を鈍らせてる。……その責任、ちゃんと受け止める」


 「ならば」


 アムネリアは、書架の奥へと歩き出す。


「“試み”を受ける資格があります。ここにあるのは、ただの知識ではない──

 思考を貫く“意志”です。……勤勉の美徳を得るには、自らの内に“学び続ける心”を呼び覚まさなければなりません」


 サティの中で、何かが微かに煌めいた。


 怠惰に抗う。


 そのためには、ただ力に頼るのではなく、“問い続ける自分”でいなければならない。


 「……お願いします。封書庫の試みを、受けさせて」


 静かな誓いのように、サティは言った。


 次なる《美徳》──《勤勉》が、確かに扉の向こうで待っている。

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