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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第19章 レクヴァリア編

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記されざる都市、レクヴァリア

記されざる都市、レクヴァリア


 その都市には、不思議な“重さ”があった。


 風は吹いている。人も歩いている。


 けれど、空気のすべてが鈍く、世界そのものが“立ち止まっている”ようだった。


「……妙ね。誰も、目を合わせてこない」


 ルリがつぶやいた。


 二人は、都市レクヴァリアの外縁から中央へと向かって歩いていた。


 街は静かだった。いや──沈んでいる、という方が正確だった。


「まるで、考えることすらやめたような……そんな空気」


 サティもまた、じわじわと体の内側に広がる違和感を感じていた。


 思考が鈍る。


 視界が曇る。


 言葉を探すのに、時間がかかる──。


「……これ、間違いないわ。《怠惰》の痕跡」


「えっ、あなたの中にある“大罪”が?」


 サティはうなずいた。


「私の《怠惰》が、この街に共鳴してる。……まるで、何かを思い出しているみたいに」


 思い出す───それは“眠り”の記憶。


 怠惰の力を使うたび、彼女の内側に訪れるあの心地よい沈黙。


 思考も、意志も、責任も、全てが溶けていくような、あの危うい快楽。


「……私自身の怠惰が、この都市の空気に染まり始めてる。

 このままじゃ……力を使えば使うほど、私は“止まって”しまう」


 ルリの顔が強ばる。


「そんな……じゃあ、どうすれば?」


 サティはそっと手を上げた。


 その掌に、ほのかな光が宿る──清らかな祈りのような光。


 《純潔》──七つの美徳の一つ。

 それは、怠惰に沈みかけた心をわずかに引き戻す光だった。


「でも、この美徳だけじゃ足りない。

 《怠惰》に抗うには、それに正面から向き合う力が必要……そう、《勤勉》が」


 その時、ルリが顔を上げる。


「サティ。……この都市に“記憶の番人”がいるらしいの。

 中央の古書館、“知の封書庫”。そこなら何かわかるかもしれないよ」


「封書庫……なるほど。記されざる真実は、記されるべき場所に眠ってる」


 彼女は小さく笑い、歩を進めた。


 その足取りは重く、でも確かだった。


 《怠惰》の影に踏み込む。


 自らの内なる力と向き合うために──そして、《勤勉》を目覚めさせるために。

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