忘却の門、知の都へ
レクヴァリア。
それは、かつて「世界の全知」が集うと呼ばれた都市だった。
しかし今や、その名を知る者すら少なく、地図からもほとんど消えている。
「思い出した。この村、レクヴァリアへの“前門”だわ」
サティの言葉に、ルリが目を見開く。
「レクヴァリア……それ、古い文献に出てきた都市じゃない?
知識と記録の管理を司っていた、王立図書都市」
サティは頷く。
「でも、その記録すら、ほとんど“塗り潰されている”。
あたかも……誰かが、そこにたどり着けないよう仕組んでいるみたいに」
ルリは懐から一冊のメモ帳を取り出す。
旅の途中で記録してきたすべての地名・人物・遺跡の断片。だが───
「……ない。私の記録からも、レクヴァリアの名前が抜けてる……!」
彼女の顔色が変わる。
「サティ、これはただの忘却じゃない。“意図された消去”よ。
私たちの記憶や記録にすら影響を及ぼしてる」
サティは静かに目を閉じた。
《大罪》の一つ、《怠惰》――記録を綴る意志を奪い、知識を鈍らせ、思考を鈍化させる力。
その影が、この村、そしてレクヴァリア全体に滲み始めているのかもしれない。
「だから、“勤勉”が必要なんだ」
サティの中に、微かに光が差した。
知を諦めない力。
繰り返し学び、紐解き、忘却に抗う強さ。
それが、次に彼女が手にするべき《美徳》。
「レクヴァリアへ行くわ。……私が失いかけた“知識”を、取り戻すために」
ルリがしっかりと頷いた。
「じゃあ、行こう。――真実の書庫へ」
影が知識を奪うのなら、美徳がそれを書き記す。
これは、忘却に抗う者たちの物語。
次なる舞台は、
“知の都レクヴァリア”──《勤勉》の章、開幕。




