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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第18章 旅路編

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欠けていくもの、支えてくれるもの

 森の小道を進む二人の足音だけが、静かに響いていた。


 昼だというのに、サティの表情は冴えなかった。


 眉間には皺が寄り、指先は時折震えている。


 ルリがちら、と横目で様子をうかがう。


「やっぱり……何か、変だよ。体調、よくない?」


 サティは小さく首を振った。


「……そうじゃない。肉体的には何ともないの。でも……記憶が、ところどころ曖昧なの」


「記憶?」


「レーベンとの戦いで、最後に使った《大罪》……全部を“開放”したあの瞬間。力は制御できたはずなのに、それ以降……何かが、少しずつ抜け落ちていく感じがするの」


 ───会話の内容、人の名前、旅の中の小さな出来事。


 ふとした瞬間に思い出せなくなっていることがある。それも、最近になって頻発していた。


 ルリは表情を曇らせる。


「……もしかして、“代償”って、そういうこと?」


「たぶんね。力を使うたびに、何かを“喰われて”いるのかもしれない」


 サティの声には苦笑が混じっていた。


「自分で“上書き”した代わりに、自分の一部を“削って”るって感じ」


 沈黙が流れた。


 ルリは俯きながら、それでも小さく呟いた。


「サティが……壊れていくなんて、イヤだよ」


 その一言に、サティは驚いたように彼女を見る。


「……ごめん、ルリ。そんな顔、させたくないのに」


「だったら、せめて……私も、何か支えになりたい」


 ルリの言葉に、サティは目を閉じ、息を整える。


「実はね、私の中には……もうひとつ、力があるの」


 サティが左手を掲げると、その周囲に微かに淡い光が集まり出した。


 それは、《大罪》のような禍々しさではなく、まるで清らかな祈りのような気配。


「これは、《七つの美徳》のひとつ。"純潔"」


「……それが、あなたを守ってくれるの?」


「ええ。まだ、ほんの小さな光だけど。

 でも……きっと、これが私の“答え”になると思うの」


 《大罪》が奪うなら、《美徳》が守る。


 この世界の理が破壊に傾くのなら、自分だけは調和を選びたい。

 そんなサティの静かな決意が、空気ににじむ。


 ふと、ルリが微笑んだ。


「じゃあ、これからは《大罪》と《美徳》、両方で進んでいこう」


「ええ。どちらかじゃなくて、両方を――私自身として、受け止めていくわ」


 そして、再び二人は歩き出す。


 旅はまだ終わらない。


 けれど、失うだけの力ではなく、守るための力を得た彼女たちの歩みは、確かに変わり始めていた。

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