表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第18章 旅路編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

166/264

名前を、思い出す朝

 光が、街を満たしていた。


 それは太陽のものではない。


 サティの掌から解き放たれた《大罪》――九つの罪が調和し、「存在の上書き」を完遂した結果として、夜の呪縛が解けたのだ。


 ルリが目を細めて、空を見上げる。


「……空が、青い……」


 何日ぶりだろう。


 いや、それ以前に、この街が“青空”というものを覚えていたのかも分からない。


「サティ……!」


 駆け寄るルリに、サティはふっと微笑んで頷いた。


「ええ、大丈夫よ。少し疲れたけど……レーベンは、もういない」


 その証拠に、街を覆っていた奇妙な魔力圧──“沈黙の強制”が、完全に消えていた。


 やがて、家々の扉がひとつ、またひとつと開いていく。


 人々が顔を出し、驚き、そして――泣いた。


「……あの子のこと、思い出した……」


「名前が……戻ってきた……」


「昨日まで、忘れてたはずなのに……っ……!」


 街の中に、“喰われたはずの存在”の記憶が、断片的に戻り始めていた。


 だがそれは、完全な復元ではなかった。


 戻ってきたのは“名”だけ。


 姿も、声も、存在そのものは戻らなかった。


 それでも人々は、ぽつりぽつりと、思い出の中の“誰か”の話を口にし始めた。


 ルリが言う。


「やっぱり……サティの《大罪》は、“喰われた存在を記録から解き放つ”ほどの力なんだね」


「記録を戻すことはできても、現実には戻せない。でも、それでも……忘れられないなら、消えないわ」


 そこに、老いた神官――イーグランドが現れる。


 彼はかつての疲れた表情とは違い、どこか晴れやかな顔をしていた。


「……お前たちが“夜”を終わらせてくれたか」


「あなたの名前を呼ばれたとき、少し危なかったけれどね」


「フン……死に損なったよ。だが、もういい」

 イーグランドは街の広場に立ち、静かに言葉を発した。


「星の堕ちた夜は、終わった。すべての者に、名が還るよう祈ろう」

 そして、サティに向き直る。


「旅人よ、お前の名は?」


「……サティ・フライデー」


「忘れぬ。忘れぬよう、書き記そう。この街を救った、大罪の使い手として」


 サティは微笑んで、首を振る。


「私はただ、誰かを忘れたくなかっただけ」


 それ以上の言葉はいらなかった。


 日が昇りきる前に、サティとルリは街をあとにした。


 背を向けるふたりに、誰かが叫ぶ。


「ありがとう!」


 サティは振り返らないまま、小さく手を上げた。


 旅はまだ続く。


 大罪の力が、彼女に何をもたらすのかも、まだ分からない。


 けれど。


 今朝のような“名前を思い出す朝”が、またどこかで来ると信じて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ