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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第18章 旅路編

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大罪は、光を纏う

 それは、黒い“核”だった。


 空間のひずみに浮かぶそれは、重力の概念すら歪めるような存在感を放っていた。

 そして──中から響いてくるのは、無数の声。


「助けて」

「やめて」

「わたしを忘れないで」

「名前を、返して――」


 レーベンの内部には、これまで喰われた者たちの“存在の残滓”が渦巻いている。

 あれは単なる核ではない。

 **「存在を喰らい、同化し、記録からも消す」**という力の集合体。


 ルリが呟いた。


「……これは、異界の干渉だ。完全に世界法則の外。普通の攻撃は通らない」


「だからこそ──」

 サティは歩み出る。静かに、確かな足取りで。


「《大罪》で“それごと”上書きする」


 ルリは頷いた。

 この世界で《大罪》に匹敵するスキルを持つ者はほとんどいない。

 その力は、魔法でもスキルでもない。“内なる真実”を具現化する呪いに近い祝福だ。


 サティの瞳が、深く染まる。


「──Manifest. Greed Grasp(強欲の手)」


 彼女の手が掲げられた瞬間、空間が裂ける。

 金と黒の輝きが、星なき夜に閃いた。


 「レーベン、その“核”……引きずり出す!」


 目には見えない“手”が、次元を超えて伸び、レーベンの内部に干渉する。

 咆哮のような波動が周囲に炸裂するが、サティは構わず引っ張った。


 ──ズルッ!


 その瞬間、核の表面が剥がれ、**中に隠されていた“第2核”**が露わになる。


 「……これが、本体か」


 だが、露わになったそれは“見ることができない”という逆説的な存在だった。

 虚ろで、形を持たず、見る者の意識を崩していく。


 「ッ……見てるだけで意識が引きずり込まれる……!」

 ルリが警戒しながら距離を取る。


 だが、サティは目を逸らさない。


 「なら、上書きするしかない」


 再び、囁く。


「──Manifest. Pride of Dominion(傲慢なる支配)」


 彼女の周囲に、七枚の魔法陣が浮かぶ。

 空間全体が反転し、レーベンの“支配域”が――サティの意志に塗り替えられていく。


 「ここは、私の領域。あんたの支配なんて、通じない」


 虚ろなる本体が震え、まるで否定されたように、空気が悲鳴を上げた。


 「やる……サティ……!」


 ルリが、息を呑みながら後方から補助結界を展開する。


 しかし。


 レーベンは、呻くように言葉を紡いだ。


 「──サティ」


 その瞬間、空間がねじれた。


 名前を呼ばれるだけで、彼女の“存在”がレーベンへと引き寄せられる。


 これは強制招喚でも魅了でもない──**“世界そのものの上書き”**だ。


 サティの足元が崩れ、空間が黒く染まっていく。


 だが――その瞬間。


「ふふっ、いいわ……」


 サティが微笑んだ。


「じゃあ、こっちも呼んであげる」


 彼女が選んだのは、封じられた“感情”。


「──Manifest. Melancholia(憂鬱)」


 静かに、しかし確実に、空間が青黒く染まる。


 音が消え、風が止まり、レーベンの内側から“哀しみ”があふれ出す。


「お前は……誰かになりたかったのね」


「喰らい、名を集め、心を埋めようとした……けど、虚しさは消えなかった」


 その言葉に、レーベンの動きが止まる。


「なら、せめて――この手で終わらせてあげる」


 サティは静かに手を伸ばす。


 その掌に浮かぶは、九つの輪の印。


「──《大罪》、全開放」


 そして彼女の掌が、核に触れた瞬間。


 星の堕ちた街に、光が――差し込んだ。

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