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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第18章 旅路編

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呼ばれる前に

 日が沈む。

 今夜も、街は息を潜めていた。


 扉は閉ざされ、窓は板で打ち付けられ、灯火はすべて消えていた。


 街全体が“夜”という存在に服従しているようだった。


「……来るわ」

 サティは広場の中心、古びた噴水の前に立っていた。


 その手には、イーグランドから渡された護符。


 ルリは一歩引いた位置で、背中を預けるように立っている。


「目標、出現まであと数分。魔力濃度、急上昇中……おそらく、あれは“世界の法則の外”からやってくる」


「ええ……今回こそ、捕らえる」


 静寂が破られる。


 カツン。カツン。


 乾いた足音が石畳に響く。


 来た──。


 白い布をかぶった異形。


 昨日と同じ、だがどこか“意志”を持ったような動き。


 今夜は、彼女たちの方を真っすぐ見ている。


「……見てる」

 ルリが唇をかすかに噛む。


 レーベンの足取りは遅い。だが確実に、ふたりへと向かってきていた。


「ルリ、いつでも動ける?」


「いつでも」


「よし。私が前に出る。レーベンが口を開いた瞬間に、絶対に“護符をかざして”。間違っても、名前を呼ばせてはだめ」


 それは単なる迷信でも、儀式でもない。


 この街で“名を奪われた者”たちは、記録上からも消えていた。


 レーベンは、存在そのものを喰らう。


 白い者が、立ち止まった。


 そして――その口元が、ゆっくりと動く。


「サ……」


 その声に、サティの身体がびりっと痺れた。


 空間が歪む。名を呼ぶだけで、存在が引き寄せられていく。


「───今!」

 ルリの声と同時に、ふたりは護符を掲げた。


 瞬間、護符が蒼白い光を放ち、レーベンの周囲の空気が裂けるように揺れた。


「ッ……が……ああ……!」


 白い者が呻くような声を発した。


 だがその叫びも、耳で聞く音ではない。心に直接響いてくるような、存在の“重圧”。


「これで……!」

 サティが手を掲げ、次の術式を展開する。


「空間固定・結界封鎖!」

 足元に六芒星が浮かび、広場全体を覆うように魔法陣が広がる。


 白い者───レーベンが逃げ場を失い、苦しげに身をよじる。


「追い詰めた……!」


 しかし。


 レーベンは、布の中から“もうひとつの口”を開いた。


 サティでもルリでもない───


 「イーグランド」


 その名が、空間に響いた。


「――っ!」


 サティがすぐさま振り返った。


 広場の端にいた封じ手・イーグランドが、呻きながら膝をつく。


「わたしの名を……なぜ……!」


 彼は護符を持っていなかった。


「ルリ、結界を維持して! 私は――!」


 サティが跳ぶ。レーベンの“名の力”がイーグランドを飲み込む前に、救い出さねばならない。


 だが、その瞬間――レーベンの身体が、裂けた。


 中から現れたのは、黒い光を帯びた核だった。


「影の核……!」


 ついに見えた、真の目的。

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