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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第18章 旅路編

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名前を呼んではいけないもの

 朝が来た。


 正確には、“光”が戻ってきた。


 だがそれはどこか薄く、現実感に欠ける空だった。空気は重く、風すら通らない。


「……ほんとに、朝なんだよね?」

 ルリが呟く。


 昨夜、“白い者”に連れ去られた少女の痕跡は、どこにも残っていなかった。


 街の人々は誰もその件に触れようとせず、まるで「最初からいなかった」かのように日常を続けていた。


「おはようございます」

 サティが宿の主に声をかけると、老女はぎこちない笑みを浮かべながら返した。


「……ええ、おはよう。ごゆっくり滞在を……できるだけ昼のうちに」


 その言い回しに、サティの眉がわずかに動く。


 それは“親切”ではなく、“恐れ”からくるものだった。


 ルリが小声で言う。


「ねぇサティ……この街の人、全員知ってるんじゃない? 白いあれのこと」


「ええ。でも“話せない”のよ。おそらく、口にすれば連れていかれる。だからみんな、黙っている」


 それは直感ではなく、昨夜サティが試していた「観察魔術」の記録が示していた。


 夜、“白い者”が近づくたびに、家々の内部の魔力反応が急激に沈静化していた。


 まるで、恐怖を“強制的に沈黙”させるかのように。


「これって呪い、あるいは……」


「“封印”の類だと思うわ」


 サティは外套を羽織り、ルリと共に街の奥、星の堕ちた痕跡があるとされる地へ向かう。


 そこには、石碑があった。


 だが、風化して読める文字はひとつしかなかった。


「レーベン」


「レーベン……人の名前? 地名? 魔物の名……?」


 ルリが口にしかけた瞬間───


「それ以上、言ってはならない」


 鋭い声が響いた。


 ふたりが振り向くと、そこに立っていたのは初老の神官服を着た男。


 目に宿る光は強く、ただ者ではないとすぐに分かる。


「この街では、その名を呼んではならぬ。名は力を持つ。特に、ここではな」


「あなたは?」

 サティの問いに、男は答える。


「……私は、イーグランド。この街の“封じ手”だ」


 サティの心に、ひとつの仮説が浮かぶ。


「つまり、あなたは──あの白い存在を“封じている”?」


 男は目を細めた。


「……否。封じようと“し続けている”にすぎん。あれは滅びぬ。名を持ち、意思を持つ“災厄”だ。空から堕ちたものの化身……そして、“星を喰うもの”」


「星を……喰う……」


 その言葉に、サティとルリは息をのむ。


「今夜も現れるのですか?」

 サティが尋ねると、男───イーグランドは、静かに頷いた。


「連れ去られた者は、決して戻らぬ。だが、もし“あれ”を捕らえることができれば……真実に近づけるかもしれん。覚悟があるのなら、夜までにこの符を持て」

 男は、古びた護符を二枚、手渡してきた。


「それは“レーベン”に名を呼ばせないための封じ札。気をつけろ。名前を呼ばれれば、今度は君たちが喰われる」


 空は、昼だというのに灰色に濁り始めていた。

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