星の堕ちた街で、夜を待つ
星の堕ちた街──。
その名は詩のようでいて、実際には何かを隠すための仮初の呼称のようだった。
サティとルリがこの地にたどり着いたのは、偶然ではない。かつて空から“何か”が落ちたと記録にある場所。それは、サティたちが追っている影の核とも無関係ではないと睨んでいた。
「空気が……少し重いわね」
街の中央、噴水の広場に立ったサティは、胸の奥で何かが引っかかるのを感じていた。
「感じる? この違和感」
ルリもまた、鋭敏な感覚を研ぎ澄ませている。
「見えないけど、何かがある。地脈じゃない、魔力の流れでもない……でも、近い」
街は一見、静かだった。
路地を歩く人々もおだやかで、商店も開いている。異様なところはない……ように“見える”。
だが、よく観察すれば、何かが違う。
時計塔の鐘が決して鳴らないこと。
子供たちが外で遊んでいないこと。
そして何より──誰一人として空を見上げようとしないこと。
「ねえ、ルリ。星が落ちたって話、どこまで本当だと思う?」
「信じたくないけど……“落ちた”ってより、“落とされた”って感じがする」
そのとき、広場に佇む一人の老人が、サティたちに近づいてきた。
杖を突き、片目に眼帯をしている。
「旅の娘さんたち……この街に長居をしてはいけないよ。夜が来る前に、出て行きなされ」
その言葉に、サティの目が細くなる。
前にも、似た忠告を聞いた気がした。否、これは――「繰り返されている」?
「なぜ、夜を恐れるのですか?」
サティの問いに、老人は遠くを見つめるような目で答えた。
「星が落ちた夜、この街は“光を忘れた”。その夜を迎えるたびに、誰かが“星に連れていかれる”。」
「……それって、つまり――」
ルリが言いかけた瞬間、風が吹き、広場の噴水の水面が波紋を描いた。
水面に映った空には、星がなかった。
黒く、虚ろな空。
「これは……」
サティが振り返ると、そこにはもう老人の姿はなかった。
「ルリ、この街……やっぱり、普通じゃない。影の核とも――きっと、つながってる」
星の堕ちた街。
失われた空と、見上げることをやめた人々。
夜は、もうすぐそこまで来ていた。




