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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第2章 ダンジョン攻略編

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ユーリシア姫

戦士長ネルザンピと顔を合わせた日から、数日が過ぎた。


その朝。まだ日が完全に昇りきらない淡い光の中、私の部屋の窓辺に、一羽の鳥が止まっていた。


「……あら。あなた、戦士長の使い魔かしら?」


羽毛は青灰色、首元には小さな金の紋章。間違いない。私は窓をそっと開け、鳥の足に結ばれていた小さな巻紙を解いた。


> サティ・フライデー殿

今夜、戦士隊本部に来てください。

会っていただきたい方がいます。

迎えを差し向けますので、自宅でお待ちください。




「……会ってほしい人?」

書かれているのはそれだけ。でも、だいたい予想はつく。


――王女様、ね。


護衛対象と事前に顔を合わせておくのは、当然の準備。私はこの日、ギルドの仕事を少し早めに切り上げることにした。



夕方、受付の整理を終え、帰る支度をしていると、背後から声がした。


「先輩、もう帰るんですか?」


振り向くと、後輩のルリが不思議そうにこちらを見ている。


「ごめんね。ちょっと用事があってさ」


「そうなんですね! お疲れ様でした」


「うん、お疲れ様!」


笑顔で言葉を交わし、ギルドを後にした。


帰宅後、私は制服を脱ぎ、戦士用の動きやすい装束に着替えた。窓の外を見ながら、迎えが来るのを待つ。すると程なくして、舗石を叩く馬の蹄音が近づいてきた。


「……来たわね」


門の前に止まった馬車の扉が開き、黒衣の戦士が降り立った。


「サティ・フライデーだな?」


「はい」


「戦士長がお待ちだ。早く乗りなさい」


促されるまま、私は馬車へと乗り込んだ。



戦士隊本部は、王都の中心部に構える巨大な石造りの要塞のような建物。威圧感のある造りだが、私は物怖じせずその廊下を進む。案内の兵士に従い、再びあの部屋の前へ。


「失礼します。サティ・フライデーをお連れしました」


「入りなさい」


中から聞こえた低く太い声に、私は扉を押して入る。


「よく来てくれました。サティ・フライデー」


「依頼ですから」


簡潔に答えると、ネルザンピは部下に下がるよう命じ、静かにうなずいた。


「護衛対象は……まだお見えにならないのですか?」


「もうすぐ来られると思います。座ってお待ちを」


それから数分――

部屋の扉の向こうから、少女のように愛らしい声が聞こえてきた。


「失礼いたします。初めまして。私、第2王女のユーリシアと申します」


振り返ると、上品なドレスを纏った少女が立っていた。薄紫の髪、透き通るような肌。だがその瞳には、王女としての決意と気高さが宿っていた。


「私は冒険者のサティ・フライデーです」


「あなたのことは、よく耳にしています。《死神》と呼ばれているとか」


「……既にご存知でしたか」


隣で、戦士長が口を開く。


「実は、サティ殿に護衛を依頼すると決めたのは、王女殿下ご自身なのです」


「……そうでしたか」


まさか、王族から直接指名されるとは。私は言葉を失いかけながらも、王女の目をまっすぐ見返した。


「どこで私のことを知ったのですか?」


「ええ、それはまた後ほど。でも今は――そろそろ本題に入りましょう」


戦士長が話を引き継ぐ。


「姫の周囲には、いま戦士がいない」


「……戦士がいない? それは、非常にまずいのでは?」


「その通りです。だからこそ、サティ殿。あなたには、姫の《専属騎士》になっていただきたい」


私は少し眉をひそめた。


「私は、騎士ではなく、ただの冒険者です」


「冒険者のままでは、王族の護衛という肩書きにふさわしくない。だから、名目上でも戦士となっていただく必要があります」


「……そうですか。なら、騎士にもなりましょう。姫からの直接の指名依頼ですもの、断る理由はありません」


「ありがとうございます、サティ殿!」


王女ユーリシアは安堵の表情を浮かべ、深く頭を下げた。


こうして私は、“王女の戦士”となった。


名を捨てず、立場を変えず、しかし命を懸けて守る覚悟だけを新たにして――

彼女の影となる道を、歩み出したのだった。



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