ステラグラフへの道、封じられた地図
翌朝。
ルメリアの宿舎で荷物をまとめ終えたサティたちは、ギルド本部に向かっていた。
アゼルが言った「星の墜ちた街・ステラグラフ」は、公式の地図には載っていない。
しかし、ギルドの禁書保管室には──**それを指し示す“失われた地図”**があるらしい。
「アゼル、本当にそこに“地図”があるの?」
「あるわ。でも、“閲覧許可”が必要よ。普通の冒険者じゃ入れない」
アゼルは淡々と言うが、サティたちはすでに“核事件”の件で本部から高く評価されていた。
「私たちの功績を使わせてもらうわ。……こういう時のために、ね」
***
ギルド本部の最上階、許可制の禁書保管室。
案内されたのは、重厚な扉で守られた小さな書庫だった。
サティが提示した証書により、部屋の奥から一冊の古い写本が運び出される。
「これが……」
分厚い皮革に綴じられたその書物は、魔力を遮断する封印術式で保護されていた。
アゼルが手のひらをかざすと、淡い光が浮かび上がり──
封印が、音もなく解かれる。
「やっぱり、あなたには“鍵”としての資質がある」
「鍵……?」
アゼルは微笑んだ。
「あなたの“銀の瞳”は、封じられた知識を開く鍵。
ステラグラフの遺産に触れるには、それが必要なの」
***
中を開くと、そこには古代文字で綴られた旅路と、魔法紋が刻まれた地図があった。
地図の中心には、こう記されていた。
> ──《ステラグラフ:星落の地》。
霧の峰を越え、風鳴きの峡谷を抜けた先、
白砂の谷に沈みし、星の骸。
「白砂の谷……ルメリアの東方、国境を越えた未踏領域じゃない?」
レオが顔をしかめる。
「あの辺りは“魔法反応の異常地帯”って呼ばれてる。
磁場が狂ってて、方位も狂う。冒険者の遭難が相次いだ場所だ」
サティは迷わなかった。
「けれど、行くしかない。ステラグラフは、その先にある」
***
地図の写しを得たあと、ギルドから出たサティたちは広場で足を止めた。
空は快晴。風が東から吹いている。
旅の始まりにふさわしい空だった。
「よし、準備はいい?」
ルリが背中の剣を軽くたたく。
「当然。久しぶりのガチ探索だもん」
ミカが笑みを浮かべ、レオが苦笑しながら続ける。
「今度こそ、平穏な道中でありますように……」
「フラグ立てないの」
サティが小さく笑った。
隣に立つアゼルが、不意にサティの袖を引く。
「……ありがとう。連れてってくれて」
「いいのよ。あなたがいたから、私は“次”に進めた」
***
その時、背後でひとりの男が呟いた。
「──銀の瞳が動き出したか」
通行人に紛れて立つ男の右手には、同じ紋章のペンダント。
アゼルのものと、まるで対になるような“黒の紋章”。
「ステラグラフの扉が開けば、“眠り”も終わる。
さあ、踊れよ、銀の娘。
真実に辿り着く前に──試練を」
男の姿は、群衆に紛れて消えた。




