再会と、旅路の交差点
ギルド本部の会議室は、朝の日差しが大きな窓から差し込み、温かい光に包まれていた。
サティたちは、影の核問題について詳細な報告書を提出したのち、休息のための滞在許可を得た。
その直後だった───
「ようやく会えたな、サティ」
低く、どこか懐かしい声が、会議室の扉の外から響いた。
開いた扉の向こうにいたのは、長身の男───レン。
その背後には、紅の外套を翻すリリィと、いつも無言で付き従うシュヴァルツの姿もあった。
「レン……」
サティの瞳が、わずかに潤む。
彼女は静かに歩み寄り、
そして──レンの胸元に、そっと額を預けた。
「……無事で、よかった」
「ああ。お前もな」
たったそれだけのやり取りだったが、言葉以上に多くの想いが伝わっていた。
***
応接用のテーブルを囲み、久々の合流を喜ぶ空気が流れる。
「影の核を、本当に壊したのか?」
「ええ。擬似核も守護体も、完全に消滅したわ」
サティがそう言うと、レンがわずかに目を伏せた。
「そうか……。これで“例の一帯”も落ち着くだろうな」
彼が言う“例の一帯”とは、かつて複数の国が領有権を主張していた影被害地帯のことだ。
核が破壊されたことで、あの地に関わる“争いの火種”も消える。
「私たちも、いろいろ見て回ってたんだよ」
リリィが笑みを浮かべて言う。
「パステコ公国では影の汚染地帯が急速に浄化されて、みんな驚いてた。サティの仕業だって噂されてたわよ?」
「ふふ……まあ、否定はしないわ」
***
一通りの報告と雑談を終えたあと、レンがふと神妙な顔になる。
「……それで、お前たちはこれからどうする?」
サティは答えず、ルリとミカ、そしてレオの顔を一人ずつ見る。
誰も言葉を発しなかったが──その目に、迷いはなかった。
「旅は……続けるわ」
静かに、しかし力強く言ったサティの言葉に、レンも目を細めた。
「そうだと思った。お前は、まだ“何か”を追っている目をしてる」
レンの言葉に、ミカが少し表情を曇らせた。
「……“影の核”が全ての元凶だったはずじゃ……?」
「たぶんね。けれど、“核が砕けたのに、なお残る気配”があった」
サティがそう言った瞬間、室内の空気がわずかに揺れたような気がした。
「つまり……終わりじゃなかったってこと?」
「完全な終わりには、まだ遠いのかもしれないわ。
“影”を欲した誰かの意志は───まだ、どこかに生きている気がする」
***
沈黙が落ちる。
その中で、レンが立ち上がった。
「だったら、おれたちも動くさ」
「え……?」
「別々の道を行くとしても、“同じ敵”に向かう限り、また必ず交わる」
リリィも立ち上がり、にっこりと笑った。
「一緒に旅はしないけど、またどこかで会える。そういう仲間って、いいと思わない?」
サティもゆっくりと立ち上がった。
「ええ、そうね。だから───そのときまで」
再び、それぞれの旅が始まる。
核の終わりは、終章ではなかった。新章の“始まり”だったのだ。




