帰還、ルメリアの空の下で
旅の終着点――今はまだ、小さな通過点に過ぎないかもしれない。
だが、サティたちにとってこの街は、間違いなく「帰る場所」だった。
ルメリア大都市。
王都と肩を並べるほどの活気と規模を誇る、ギルドの拠点都市。
その街を見下ろす高台に、サティたちは立っていた。
「帰ってきたわね……」
サティがぽつりと呟く。
霧に沈んだ村。命を賭して創られた擬似核。
影と戦い、ミリエルの願いを聞き届け、核を砕いた。
そのすべてを、風が過ぎ去るように思い出させた。
「……静かだな」
レオが言った。
それは、戦いのない空気に対してだけではなかった。
心が、少しだけ軽くなっている。
「戻ってくるだけで、こんなに安心するんだね……」
ミカの言葉に、ルリがうなずいた。
「宿の風呂、空いてるといいな……」
「ふふっ」
サティは思わず吹き出した。
そう、それでいいのだ。
重い使命も、過去も、それでも笑える場所があるからこそ、彼女たちは進める。
ルメリアの石畳を、四人は並んで歩いた。
市場の喧騒、匂い立つパン屋の香り、ギルド前にたむろする冒険者たちの笑い声───
すべてが、懐かしく、暖かかった。
***
ギルド本部に着くと、受付嬢の一人がすぐに気づいた。
「おかえりなさい、サティさん!」
「随分と長い任務だったみたいですね。心配してましたよ?」
サティは微笑んで答えた。
「ただいま戻りました。“影”の核に関する問題は、すべて解決しました」
受付嬢が目を見開く。
「本当ですか? 本部にも報告が来ていたんです。影に関する不穏な動きが、ぱたりと止まったって」
「ええ。もう、二度と現れないでしょう」
サティは確信を持ってそう答えた。
***
その夜。
久しぶりのギルド宿舎に戻ったサティたちは、広めの部屋に集まっていた。
テーブルには温かいスープとパン。
ルリが鍋をつつきながら言う。
「やっぱりルメリア飯は最高ね」
「食堂で飯が出るだけでも、文明を感じるよね……」
ミカがしみじみと言い、レオが一口食べてうなずく。
「食後は風呂。……そして、ベッド。寝袋じゃないベッドだ」
ふふっと笑いがこぼれる。
それぞれが少しずつ、日常へと戻っていく。
だがサティだけは、窓の外――夜空を見上げていた。
星がきれいに瞬いている。
核を壊した時に願ったのは、「もう誰も影に囚われないこと」。
それが、ちゃんと届いた気がしていた。
***
その翌朝。
ギルドからの伝達を受けて、サティたちは本部の会議室に呼ばれた。
「報告と、今後の対応について話を聞きたいとのことです。あと……」
「あと?」
受付嬢が、にっこりと微笑んだ。
「レンさんたち、既にルメリア入りしてるみたいですよ。今日には顔を見せると思います」
「――そう」
サティの口元がわずかにほころぶ。
静かな平穏の中に、また一つ、風が吹こうとしていた。




