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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第18章 旅路編

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帰還、ルメリアの空の下で

 旅の終着点――今はまだ、小さな通過点に過ぎないかもしれない。


 だが、サティたちにとってこの街は、間違いなく「帰る場所」だった。


 ルメリア大都市。


 王都と肩を並べるほどの活気と規模を誇る、ギルドの拠点都市。


 その街を見下ろす高台に、サティたちは立っていた。


「帰ってきたわね……」


 サティがぽつりと呟く。


 霧に沈んだ村。命を賭して創られた擬似核。


 影と戦い、ミリエルの願いを聞き届け、核を砕いた。


 そのすべてを、風が過ぎ去るように思い出させた。


「……静かだな」


 レオが言った。


 それは、戦いのない空気に対してだけではなかった。


 心が、少しだけ軽くなっている。


「戻ってくるだけで、こんなに安心するんだね……」


 ミカの言葉に、ルリがうなずいた。


「宿の風呂、空いてるといいな……」


「ふふっ」


 サティは思わず吹き出した。


 そう、それでいいのだ。


 重い使命も、過去も、それでも笑える場所があるからこそ、彼女たちは進める。


 ルメリアの石畳を、四人は並んで歩いた。


 市場の喧騒、匂い立つパン屋の香り、ギルド前にたむろする冒険者たちの笑い声───

 すべてが、懐かしく、暖かかった。



***


 ギルド本部に着くと、受付嬢の一人がすぐに気づいた。


「おかえりなさい、サティさん!」


「随分と長い任務だったみたいですね。心配してましたよ?」


 サティは微笑んで答えた。


「ただいま戻りました。“影”の核に関する問題は、すべて解決しました」


 受付嬢が目を見開く。


「本当ですか? 本部にも報告が来ていたんです。影に関する不穏な動きが、ぱたりと止まったって」


「ええ。もう、二度と現れないでしょう」


 サティは確信を持ってそう答えた。



***


 その夜。


 久しぶりのギルド宿舎に戻ったサティたちは、広めの部屋に集まっていた。


 テーブルには温かいスープとパン。


 ルリが鍋をつつきながら言う。


「やっぱりルメリア飯は最高ね」


「食堂で飯が出るだけでも、文明を感じるよね……」


 ミカがしみじみと言い、レオが一口食べてうなずく。


「食後は風呂。……そして、ベッド。寝袋じゃないベッドだ」


 ふふっと笑いがこぼれる。


 それぞれが少しずつ、日常へと戻っていく。


 だがサティだけは、窓の外――夜空を見上げていた。


 星がきれいに瞬いている。


 核を壊した時に願ったのは、「もう誰も影に囚われないこと」。


 それが、ちゃんと届いた気がしていた。



***


 その翌朝。

 ギルドからの伝達を受けて、サティたちは本部の会議室に呼ばれた。


「報告と、今後の対応について話を聞きたいとのことです。あと……」


「あと?」


 受付嬢が、にっこりと微笑んだ。


「レンさんたち、既にルメリア入りしてるみたいですよ。今日には顔を見せると思います」


「――そう」


 サティの口元がわずかにほころぶ。


 静かな平穏の中に、また一つ、風が吹こうとしていた。

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