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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第18章 旅路編

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核に囚われし声、そして選択

 砕け散った“影の守護体”の残骸が、まるで灰のように崩れ落ちた。


 中央の擬似核だけが、なおも静かに鼓動している。


 トクン……トクン……。


 まるで、生きているかのように。


「終わってない……まだ、核は完全に生きてる」


 サティは杖を握りしめたまま、核に向かって静かに歩みを進める。


 ルリが問う。


「壊せるの? これを」


「できるわ。私たちの魔力を集中させれば、擬似核は崩壊する」


 だがサティの声には、どこか躊躇いがあった。


「けど……問題は、そう簡単じゃないの」


 そのときだった。


 ――“声”が、響いた。


《……やめて……》


 女の声。


 柔らかく、儚げで、どこか懐かしい響き。


「……誰?」


 ミカが警戒して短剣を構えるが、影は動かない。


 代わりに、核の中から“幻影”が浮かび上がった。


 一人の女性。


 透明な魔力の像。白い服、優しげな目元。そして───


 レオが息を呑んだ。


「兄さんの……婚約者だった人だ」


「え?」


「“ミリエル”……兄が研究に関わる前に、共に理想を語ってた女性。

 “影”を兵器ではなく、災厄への盾に変えると……」


 彼女は微笑んだまま、サティに視線を向ける。


《この核には……私の“魂の残滓”が宿っているの。

 研究が暴走したとき、私の体は……核の礎にされた。》


「……っ」


《だけど、私にはまだ意志がある。この核が生きている限り……私は“ここ”にいる。

 これを壊せば、私の存在も……完全に消える》


 ルリが言葉を詰まらせた。


「そんな……じゃあ、壊せないってこと?」


《いいえ。壊して》


 サティが目を見開く。


《お願い。もう誰も、これに囚われてはいけない。

 この核が存在する限り、また誰かが“影”を欲しがる。

 だから……終わらせて。あなたたちの手で》


 しばらく、誰も言葉を発せなかった。


 ミカが、震える声で呟く。


「“影”に奪われた者が……その“影”を止めてほしいと願うなんて……」


 レオは、目を伏せたまま言った。


「兄さんが消えたのは、彼女を救おうとしたせいだったのかもな……」


 静かに、サティが杖を掲げた。


「わかったわ、ミリエルさん。……あなたの願い、私たちで終わらせる」


 レオも構える。


「この愚かな実験も、失われた命も、意味のある“終わり”にしよう」


 ルリとミカも、無言で頷いた。


 ───四人が、魔力を核に向けて集中させる。


 空間が軋み、擬似核が抵抗するように脈動する。


 だが、その全てを乗り越え、力が重なった瞬間───光が、核を包んだ。


 そして、静かに――音もなく、砕け散った。


 黒い霧が、完全に晴れる。


 ミリエルの幻影も、微笑を残して静かに霧散した。



***


 影の気配はもう、どこにもない。


 神殿の天井から、崩れ落ちるように光が差し込んでいた。


「……これで、終わったのよね」


 サティが囁くと、誰もが静かに頷いた。


「核も、影も……もう、戻ってこない」


 ルリが深く息を吐き、ミカは静かに手を合わせた。


 レオは、目を閉じたまま呟いた。


「ありがとう、兄さん。……そして、さようなら、ミリエルさん」



***


 こうして――


 “影の核”を巡る旅は、終わった。


 けれど、旅そのものはまだ終わらない。

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