神殿に至る路、仲間たちの決意
祠の中で手に入れた古びた地図を頼りに、サティたちは再び歩き出していた。
向かう先は、村の南――霧の谷を抜けた先の断崖の奥深くにあるという、“忘れられた神殿”。
そこは、影の核を模した禁術が行われていたとされる、古の研究施設。
影に関わる何かが、確かに“今も”そこに存在している。
全員が、それを確信していた。
けれど、神殿に入る前に、サティたちは一度、霧の谷を見渡せる崖の中腹で足を止めた。
「ここから先は……もう、引き返せないわ」
サティがそう言うと、ルリがにやっと笑う。
「引き返す気、最初からないでしょ」
「ええ。もちろん」
サティは小さく笑い返すと、視線を遠くへ向けた。
「だけど――一つ、確認しておきたくて」
彼女は三人を見渡す。
「私たちは、ここまで“影の核”を追ってきた。けれどこの先は……ただの追跡じゃない。
根本に触れることになる。誰かが何を望み、何を犠牲にして“影”を生んだのか――。
それと向き合うことになるわ」
風が吹き抜ける。
ミカが、静かに口を開いた。
「……私は、それを知りたい。
“影”のせいで、村も家族も奪われた。でも、誰かのせいにするだけじゃ、前に進めない」
彼女の握る短剣の柄が、かすかに震えていた。
「敵を斬るだけじゃ、答えは出ない。
でも、何が間違っていて、何が罪だったのかは――自分の目で確かめたいの」
ルリがそれに頷いた。
「ミカ……うん。
サティ、あたしも進むよ。
だって、あんたが立ち止まらない限り、あたしも後ろには戻らない」
サティは微笑み、最後にレオに目を向けた。
レオは目を伏せ、深く息を吐いてから言った。
「十三年前、あの神殿の実験に関わった研究者に、俺の兄がいた」
「……!」
サティとルリが驚き、ミカも言葉を失う。
「正確に言えば、“関わらされた”と言うべきだろうな。
兄は、影の核が“兵器として使えるか”という研究の末端にいた。
だが、実験は暴走して、“それ”が目を覚ました。
それ以来、兄は……行方不明だ」
レオの拳が震える。
「この手で、何かを終わらせたい。兄を恨んでいるわけじゃない。でも――責任を、誰かが見届けなくちゃいけないんだ」
しばしの静寂ののち、サティが静かに口を開いた。
「ありがとう、レオ。みんなも」
そして、空を仰ぐ。
高く澄んだ空の下、霧の谷を越えた先に、“神殿”が待っている。
「核を、終わらせましょう。ここで」
***
こうして、四人の意志はひとつになった。
影の核を終わらせるための旅路――その最終章が、今始まる。




