霧深き封印の村
山を越え、谷を下る道の先に、霧に包まれた小さな村があった。
村の名は――“アルケア”。
地元の伝承では、かつて強大な魔術師によって“影の核”を封じた場所だと言われている。
だが、長年の隔絶により、外界とはほとんど交流が途絶えていた。
サティたちは村の入口に差し掛かり、緊張の面持ちでその霧に足を踏み入れる。
「空気が……重い」
ルリが呟き、サティも同意する。
「ただの霧じゃないわね。魔力が混ざってる」
レオは慎重に杖を握りしめ、視線を周囲に巡らせる。
「……これが“封印の霧”か。俺たちが追っている“影”の痕跡の一端だろう」
ミカも無言で頷き、足元の草むらを注意深く見つめていた。
村の中央には古びた祭壇があり、その周囲に異様な黒い紋様が刻まれていた。
サティは息を呑む。
「これが封印術の残滓……でも、どこか歪んでいる。何かが崩れかけている」
そのとき、村の奥から、低く響く呻き声が聞こえた。
「誰かいるの?」
ルリが声を張るが、返事はなかった。代わりに、背後から冷たい風が吹き抜けた。
「気をつけて」
サティの声に、四人は自然と背を合わせる。
突然、黒い霧が村の中から立ち上り、まるで意思を持つかのようにゆらゆらと動き出した。
霧の中から、歪んだ“影”が幾つも姿を現す。
人の形をしているが、どれもぼやけていて、その存在は異形そのものだった。
「来たわよ」
サティが杖を構え、ルリもすぐに剣を抜く。レオが魔法陣を描き、ミカは鋭く獲物を狙うように目を光らせた。
「これが……“影”の正体の一端かもしれない」
四人の決意が、霧深い村を震わせた。




