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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第18章 旅路編

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霧の奥、消えたもの

 黒い槍が突き刺さったまま、地面にじわじわと魔力が広がっていた。


 それは腐食するかのように草を枯らし、土の色を濁らせていく。


 ルリは槍に近づこうとしたが、サティが静かに腕を伸ばして止めた。


「触れないで。……これは、“影の核”の残滓に似ている」


「前に戦ったやつ、の?」


「ええ。でも、あのときのものとは……何かが違う。もっと粗雑で、制御が利いていない」


 それはまるで、“未完成な影”。


 誰かが核の模造を試みて、失敗したかのような――そんな気配だった。


「レオ。……あなたは、これに心当たりが?」


 サティが視線を向けると、レオはわずかに口を引き結び、言葉を選ぶようにして答えた。


「……ああ。似た気配を、以前にも感じたことがある。北の山岳地帯で、“影の霧”に村が呑まれたときだ」


「村が……?」


 ルリが目を見開く。ミカは視線を落とし、手を強く握りしめた。


 レオが続ける。


「あれは、もう一年以上前の話だ。俺たちは生き残ったが、あのとき……俺の友は、“影”に囚われた」


「囚われた?」


「ああ。……生きたまま、存在が呑まれる。肉体ごと“同化”されるようにね」


 場に一瞬、重い沈黙が落ちた。


 風が止まり、森の木々までもが話を聞いているかのようだった。


 そして、サティはゆっくりと言葉を置いた。


「あなたたちも、“影”を追っているのね」


「……ああ。あの夜から、俺たちは“影の痕跡”を辿っている。そして今、またこうして巡り合った。……君たちと」


 レオの目は、仄かに揺れていた。


 その視線の奥には、執念にも似た感情が見え隠れしている。


「だったら、一緒に来る?」


 不意にルリが言った。


 サティがちらりと彼女を見ると、ルリは真っすぐな目をしていた。


「目的、同じでしょ。だったら、無理に別れるより……一緒にいた方がいい」


 ミカが小さく目を開く。サティは少し考えて、静かに頷いた。


「……確かに。“影”を追うなら、情報も戦力も多い方がいいわ」


「決まり、か」


 レオが安堵したように笑う。その隣で、ミカがぽつりと呟く。


「……この人たちとなら、きっと……また、誰も失わずにすむかもしれない」


 サティはその言葉を聞き、何も言わず、ただ静かにうなずいた。



***


 こうして、旅の仲間は四人となった。


 目的地は変わらない。けれど、その道筋は少しずつ、別の何かへと繋がっていく。


 “影”は今もどこかにいる。

 その手が再び、誰かを奪う前に――。

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