影の残滓
朝村を出発してから半日が経ち、サティたちは森の奥深くを移動している。風の音さえ吸い込まれるような沈黙の中、サティとルリは足を止めた。
「この気配……昨日の“影”と似てる」
ルリが呟いた。昨夜、村を襲った謎の魔物――その残滓のような気配が、微かにこのあたりに残っている。サティは草をかき分けながら足元を見つめた。
「……魔素濃度が高い。ここが核の発生源かもしれないわね」
彼女は手をかざし、目に見えない気配を探る。数あるスキルの内の1つ《解析》が脳裏に走り、瞬時に構造を読み取る。
「……あった。“影の核”。まだ未完全な状態だけど」
「今のうちに、壊しておく?」
サティは頷く。「でも、待って。これ……自然発生じゃない。人工的に仕込まれてるわ」
「つまり、誰かが――?」
その瞬間、森にざわめきが走る。風でも獣でもない、魔力の震え。空間が歪み、影が形を取り始める。
「来たわね……核の守護者」
人型とも獣型ともつかぬ異形の魔物が姿を現す。だがサティはすでに動いていた。細剣を引き抜き、魔法の詠唱を重ねる。
「《封魔の銀光》!」
閃光が走り、影を貫く。ルリも即座に援護魔法で追撃する。
「逃げ道は封じた。サティ!」
「わかってる――《浄化の刃》!」
剣先が核を捉え、魔力が霧散する。守護者の咆哮とともに、影は消滅し、核も砕け散った。
森に、静寂が戻る。
「ふぅ……これで、ひとまず安心ね」
「影の核……意図的に配置されてるなら、どこかに仕掛け人がいる」
「ええ。でも、それは後でいい。今は……」
サティは空を見上げた。雲一つない青空が広がっている。
「旅を、楽しみましょう」




