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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第18章 旅路編

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影の核を追って

 村を出る準備は、思ったよりも早く整った。


 調査の名目で訪れていたサティたちは、もとより長居するつもりもなかった。


 だが。


 この村で見た影は、確かな“手がかり”を残していった。


「……あの石片、鑑定に回してもらうとして。現地で調べるほうが早いわね」

 サティはルリと並んで村の外れを歩く。


 村人たちは、どこか怯えたまま、表に出ようとしない。夢に囚われ、眠ることすら怖れているようだった。


「サティ、例の“外から来た人間”だけど……一人だけ、該当者がいるって」

 ルリが懐から、村の古老から聞き取ったメモを取り出した。


「三日前、旅の僧侶を名乗る男が一晩だけ泊まったらしい。名前は……『ロゼア・フラム』」


「ロゼア……どこかで聞いたことがあるような」

 サティが目を細める。


 そして、思い出したように立ち止まった。


「待って。ロゼア・フラム。確か、パステコの旧領――“影の丘”に出入りしていたはず」


「“影の丘”って……地図に載ってない、あの……?」


「ええ。百年前に封鎖された廃領の名残。学会でも正式には存在しないことになってるけど……一部の記録には残っていたの」


 サティは石片を取り出す。


 それに反応するように、微かな魔力の震えが指先に走った。


「……反応してる?」


「この石、あの“影の丘”に由来する可能性が高いわ。間違いなく、パステコ公国が関わってる」


 ルリが小さく息を呑む。


 その時だった。


 ごぉ……という重低音の風が、ふたりの頬を撫でた。


「風が……変わった?」


 森のほうから、どこか焦げたような匂いがする。


 同時に、サティの肌に、ざわりとした魔力の逆流が走った。


「来るわ……! ルリ、構えて!」


 黒い霧が、村の外れから立ち上っていた。


 その中心に、ふたたび“影”が姿を現す。


 だが、昨日のものとは違っていた。


 輪郭がはっきりしている。手足のようなものがあり、頭部と思しき位置に、仮面のような白い意匠があった。


「擬態が進んでる……人の姿に近づいてるの⁉」


 サティが魔力を展開する前に、影が腕を振る。


 その瞬間、大地が抉れ、ルリが咄嗟に飛び退いた。


「っく……! サティ、これ……本体じゃない、でも強い!」


「本体の“核”を守る番人……あるいは、送り込まれた刺客……!」


 影が唸るように声を上げた。


 いや、それは言葉だった。


「――来るな、来るな、来るな――」

 男とも女ともつかぬ、無機質な声。


 サティはその言葉に動じることなく、前へ出る。


「来るな、じゃない。あなたが、呼んだんでしょう?」


 右手に展開した魔法陣が、光を帯びる。


「行くわよ、ルリ! これはただの魔物じゃない。呪術の“しもべ”よ!」


「うん、やってやろう!」


 影が飛びかかる。

 地を裂き、風を裂き、叫びながら突進する。


 だがその瞬間。


 サティの掌から放たれた光が、影の中心――仮面のある箇所を、直撃した。


 爆音。衝撃。舞い上がる黒い霧。


 残されたのは、砕けた仮面と、またひとつの“石片”だった。


 それを拾い上げ、サティは見つめる。


「……やっぱり、パステコの印……。もう確信したわ。全部、繋がってる」


 彼女は顔を上げ、東の空を見た。


 そこに広がるのは、パステコ公国――影の本拠地。


「行きましょう、ルリ。……“影の核”を壊しに」


「うん。今度は、終わらせよう」


 彼女たちは、霧の残る村をあとにした。


 夜は明けたばかり。だが、その光はまだ、すべてを照らしてはいなかった――。

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