表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第17章 旅立ち編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

132/264

旅立ちの鐘は静かに鳴る

ギルドの大扉をくぐり抜けた瞬間、サティは小さく息を吸い込んだ。


街の空気は清々しく、これまでと同じはずなのに、今日だけは何かが違って感じられた。


石畳の道を、二人は並んで歩く。


サティは振り返る。広場の遠く、ギルドの扉がまだ開いていて、仲間たちの姿が小さく手を振っていた。


「……あの景色、きっと忘れないわ」


「ふふっ、先輩らしいですね。振り返るの、早いですよ」ルリがくすりと笑った。


「だって……実感が、まだ湧かなくて。私、本当に旅立ったんだって思うと……」


サティは一歩一歩踏みしめるように歩きながら、少しだけ口元を引き結ぶ。


ルリはそんなサティに寄り添いながら、柔らかな声で言った。


「私たち、ただ旅に出るだけじゃない。見たことのない世界を歩いて、新しい人と出会って、自分の知らない自分に出会って――

きっと、帰ってくる頃には、今の私たちよりもっと強くなってるよ」


サティはふと、ルリの横顔を見る。


風に揺れる淡い髪。穏やかな微笑み。その姿が、不思議なほどに心強かった。


「……そうだね。私、変わりたいって思ってた。受付の仕事も、街の暮らしも、大好きだけど……。

それでも、もっと広い世界をこの目で見てみたかった」


「なら、きっとこの旅はそのための第一歩だよ」


小高い丘を越えると、ルメリアの街全体が見渡せた。


白壁の家々、城壁、そして中央にそびえるギルドの塔――そこが二人の帰る場所だった。


「……ルリ、ありがとう。一緒に来てくれて」


ルリはサティの手をそっと握り返す。


「一人で行くなんて、許しません。私も、サティ先輩と同じ気持ちだったんですよ」


二人は黙って空を仰いだ。夏の空は高く、遠く、果てしない。


その先に、どんな冒険が待っているのかはまだわからない。だけど――


「さあ、行きましょう。第一の目的地は――パステコ公国、でしたよね?」


「うん。ギルドに届いてた情報だと、今は祭りの準備で賑わってるみたい」


「祭り?それってつまり、美味しいものがたくさんってことですか?」


「ええ、もう……ルリったら。真面目に情報集めしてたの、私よ?」


二人は笑い合いながら、街道をまっすぐに進んでいった。


それは、冒険の始まり――

受付嬢サティが“外の世界”を知り、“自分”と向き合う、本当の旅の幕開けだった。


***


>  陽が傾き始めた草原を、二人は並んで歩いていた。

 何気ない沈黙。けれど、それが心地よかった。


「……なんか、不思議ね」

「何がですか?」


「こうやって、あなたと“並んで歩いてる”こと。ギルドじゃ、私が先に立って、あなたが後ろにいたでしょ?」


ルリは少し驚いた顔をしたあと、ゆっくりと笑った。


「そうですね。でも今は……旅の相棒ですから」


サティはその言葉に、小さく胸を突かれた。

相棒。――いい言葉だった。


「じゃあ、これからも支えてもらおうかしら。相棒さん?」


「……もちろんです、サティ先輩。あなたが前を見てくれるなら、私はその隣を歩き続けます」


風が、草原を揺らす。


それは、二人の関係が“新しいかたち”へと変わっていく、静かな予感の風だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ