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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第17章 旅立ち編

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旅立ち準備日和②

「こっちこっち! 絶対こっちの方が似合うってば!」


ルリに腕を引かれ、サティは街角の仕立て屋へと連れていかれた。


“旅人向け”と謳ってはいるものの、店内には可愛らしい布地のワンピースや、実用性とは無縁のようなレース装飾の服が並んでいる。


「……本当にここ、旅人用?」


「旅人だっておしゃれしたいの! 戦うだけが旅じゃないんだから!」


ルリは棚からすっと服を取り出し、サティの前に押し付けた。


「はいっ、これ着てみて! 今のサティにぴったりな“風色ワンピース”!」


差し出されたのは、淡いスモーキーブルーのワンピース。


風にそよぐような軽い布地で、肩の部分が少し透けている。首元には小さな銀の刺繍が揺れていた。


「……かわいすぎない?」


「今のあんたにちょうどいいって意味だよ。ほら、ほら、さっさと試着~!」


仕方なく試着室へ押し込まれ、数分後──


「……どう?」


サティがカーテンを開けて出てきた瞬間、ルリの口元が綻んだ。


「……わ。すご。……めっちゃ綺麗」


「……うそ。似合ってる?」


「似合ってる。いつもの制服姿もいいけど、こういうのもすっごくいい」


サティは少し戸惑いながらも、自分の姿を鏡で確認した。


(……確かに、旅人らしいかも)


どこか硬かった自分が、ほんの少しほぐれていくような気がした。


「じゃあこれにする。ルリのセンス、意外と信用してもいいかも」


「でしょー! あっ、じゃあ私もなんか選ぼっと!」


ルリが「派手すぎる」「露出高すぎ」「え、逆に防御力ゼロでは?」とひとりツッコミをしながら服を選んでいるのを横目に、サティは静かに息を吐いた。


(こんなふうに笑える時間……ずっと欲しかったのかもしれない)


***


買い物を終えたあと、二人はルメリアの郊外にある“風見の丘”へと足を運んだ。


街を一望できるその高台には、小さな風車がいくつも立ち並び、夕暮れの風をカラカラと受けて回っている。


「ここ、サティのお気に入りって言ってたっけ?」


「ええ。ギルドで働いてた頃、疲れたときによく来てたの。ここに座って、ただ風を感じてるだけで、少しだけ楽になったから」


サティは草の上に腰を下ろし、膝を抱える。

ルリも隣に座り、肩を並べた。


夕陽が街を赤く染め、遠くの塔が影絵のように浮かび上がっている。


「……旅に出るって、実感ある?」


「まだ、半分くらい。荷物は詰めたのに、心の整理は、まだ追いついてないかも」


「ふふ、そういうもんだよ。私も初めて冒険に出たとき、荷物にぬいぐるみ入れてたもん」


「……えっ、ほんと?」


「マジ。旅先で泣くときの用。今でも鞄にちっちゃいの入ってるよ?」


「……ふふっ、可愛い」


風が吹く。ふたりの髪が、静かに揺れた。


「ラーナが残したもの、全部は受け取れなかったけど……私は、私の風を信じてみたい」


「うん。サティの風は、すごく……優しいよ」


そう言ったルリの声は、ほんの少しだけ震えていた。


「……ありがとう。ルリがいてくれて、ほんとうによかった」


「……ったく、泣かせにくるんじゃないよー」


「ふふ、泣いてないくせに」


「泣いてないしっ!」


ふたりの笑い声が、夕暮れの丘にふわりと溶けていった。


やがて空は群青色へと染まり、夜の帳が静かに降りてくる。


こうして、“旅の準備”はひとつずつ整っていく。心も、風も、少しずつ“旅人”へと変わっていくのだった。

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