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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第17章 旅立ち編

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旅立ち準備日和

ルメリアの朝は、静かだった。


昨日までの騒がしさが嘘のように、空は澄みわたり、風は穏やかに街の屋根を撫でていく。


ギルドの一角、宿舎の一室。


荷物を広げたサティは、ひとつずつ旅の持ち物を確認していた。


「ポーション三種、保存食、魔導地図、それから……うん、最低限にはなったかな」


小さなトランクの中には、必要最小限の装備といくつかの思い出が詰まっている。


その上に、そっと“風除けのスカーフ”を畳んで置いた。かつての同僚たちが贈ってくれたものだ。


「……忘れ物、ないよね?」


その問いかけに返事をしたのは、隣の部屋から顔を出したルリだった。


「ううん、あるよ。重大なのが」


「えっ、なにか足りなかった?」


「おやつだよおやつ! 旅に出るのにスイーツ忘れるなんてありえないでしょーが!」


「……あ、そっち?」


呆れたように笑いながら、サティは手にしていたトランクの蓋を閉めた。


***


ルメリアの市場は、昼になると活気を取り戻す。旅人、冒険者、地元の人々が行き交い、雑多な品と香辛料の香りが立ちこめる。


サティとルリは、そんな雑踏の中を並んで歩いていた。


サティは地図と装備品を、ルリは食べ歩きと買い物メモを片手に。


「これ見てサティ! “風の恵みパン”って名前だけで買いたくなるセンスじゃない?!」


「名前はすごいけど……それ、賞味期限大丈夫?」


「大丈夫! たぶん!」


「“たぶん”の時点でちょっと怖いんだけど……」


軽口を叩き合いながらも、歩くペースは自然と揃っていた。


サティはふと、並ぶ露店を眺めながら思った。


(こうして歩くの、なんだか久しぶりな気がする)


ギルドでの仕事、神殿での戦い、そして風巫女の記憶。


気づけば“誰かのため”に動き続けていた。


でも今は──


「サティ」


「ん?」


「……ちょっとだけ、顔が柔らかくなった」


「え?」


「神殿に行く前は、肩にすっごい力入ってたけど、今は“旅人”って顔してる」


言われて、サティは小さく笑った。


「……そうかもね。あの神殿で、少しだけ“自分”を取り戻せたのかも」


「ならよかった!」


ルリは満足げにパンを頬張った。


「それじゃ、旅の始まりにふさわしい服でも探しに行こう! サティの私服、ちょっとレアだし!」


「……私、そういうの疎いんだけど」


「だから私が選ぶ!」


そう宣言するルリに引っ張られるように、サティは次の店へと歩き出した。


気づけば、風がまた、彼女たちの背を押していた。

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