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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第16章 休暇旅行編

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間章 ――風を継ぐ者の夢

──風の中で、彼女は立っていた。


まどろみの中、サティは夢を見ていた。


見覚えのある神殿の石畳。風が揺らす草の香り。そして、静かに立つひとりの少女。


銀の髪に風の紋を抱き、蒼き祈祷衣を身にまとう少女──風巫女、ラーナ。


「あなた……」


声をかけるよりも早く、ラーナが振り返った。微笑んで、そっと目を細める。


「……会えて、よかった。風が、あなたを連れてきてくれたのね」


「これは……夢?」


サティは問いながらも、それが単なる幻ではないと感じていた。


胸の奥に残るあの風の余韻。記憶の中に触れた“想い”が、今も確かに鼓動を持っている。


「これは記憶……だけど、それだけじゃない。風が紡いだ、私の最後の祈りのかたち」


ラーナは静かに歩み寄る。そしてサティの手を、そっと包んだ。


「あなたには、私が見えたのね。私の想いを、受け取ってくれた」


「……私は、ラーナの選択が正しかったと思う」


そう告げたサティの瞳に、迷いはなかった。


「命を捧げることだけが正義じゃない。生きるために抗うことも、誰かを守るために戦うことも──そのどれもが“意志”だと、私は信じてる」


ラーナの瞳が、ゆっくりと潤んだ。


「……ありがとう。ずっと、誰かにその言葉を……待ってたのかもしれない」


風が、そっと吹く。


まるで、ふたりを祝福するように、柔らかく、優しく。


「サティ。あなたは、私の風を継いでくれた。けれどそれは、私の代わりじゃない」


ラーナはそっとサティの胸に手を置いた。


「ここにある風は、あなた自身のもの。私の祈りは、あなたの風に宿り、あなただけの“意志”になる」


「私の風……」


「風は、常に変わる。でも、どれだけ姿を変えても、その根には“誰かの願い”があるの。あなたが信じた風を、どうか大切にして」


サティは深く頷いた。


「……うん。私は、私の風で……これからも進んでいく」


「……それでいい」


ラーナの姿が、少しずつ淡くなっていく。


「あなたに出会えてよかった。どうか、風が、あなたを守りますように──」


夢が、終わる。


* * *


「……ん」


サティは、目を開けた。


隣では、ルリが寝息を立てている。神殿を出たあと、野営地で少し仮眠を取っていたのだ。


──風が、頬を撫でた。


サティはそっと空を見上げる。


星ひとつない夜空に、流れる風だけが確かにそこにあった。


「ありがとう、ラーナ。私が背負うのは、もう“記憶”じゃない。あなたの、祈りそのもの──」


そして彼女は、小さく呟いた。


「……私の風で、守ってみせる。今度は私が、“選ぶ”番」


その声に応えるように、風が静かに、やさしく鳴いた。


(間章・了)

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