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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第16章 休暇旅行編

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間章 ――風巫女ラーナの祈り

風が、泣いていた。


それは私の頬を撫でる風であり、心を裂く声でもあった。


私は、風巫女ラーナ。


神に選ばれた巫女として生まれ、風の神託を受け、その言葉を伝えるためだけに生きてきた。


けれど、あの日。

私はその“声”に背いた。


『大いなる風災、迫る。汝、身を器とし、その災厄を封ぜよ』


それが、風の神の命だった。


命を賭して、災厄を封じよ。

私が消えれば、幾千の命が救われるという。


でも。


「私は、生きていたい……」


その言葉を口にしたとき、巫女としての私は、もう終わっていたのかもしれない。


私が拒んだことで、災厄は封印されず、風の力は暴れ、村はひとつ吹き飛んだ。


その罪を、私は今も背負っている。


いや──私だけが、それを“覚えている”のだ。


時代は流れ、私の名も消え、風巫女の系譜も失われた。


けれど私は、この神殿に残った。


罪の証人として。


誰かに託す、そのときを待つために。


私は後悔している。


でも、あの選択を“間違いだった”とは、言いたくない。


私の命を削ることでしか封じられない災厄なら、それはもう、“神”ではない。


私の中にある風は、今も問いかけてくる。


「おまえは、誰かのために死ねるか?」


いいえ。私は、誰かのために“生きたかった”。


もしも、私の想いを、理解してくれる人が現れるなら──

その人になら、全てを託したい。


風は人を殺すこともあれば、癒すこともできる。


誰かの涙を乾かし、背中を押すことだってできる。


私は、そんな風であってほしかった。


だから、ここで待っている。


何百年、何千年でも。


“風を力ではなく、意志として継ぐ者”を。


サティ。あなたの名はまだ知らないけれど……

あなたの風は、優しかった。あの時、私の記憶に触れたその瞬間、風が喜んだのがわかった。


私の選ばなかった未来を、

あなたが、歩んでくれたなら。


それだけで、私は──


風に祈る。


風に託す。


私の、すべてを。


***

風巫女ラーナの祈り・了

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