表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第16章 休暇旅行編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

124/264

風巫女の記憶④

──風巫女の記憶空間──


「風が、あなたを導きますように──」


風巫女・ラーナの声が消えた瞬間、光が爆ぜた。眩い光に包まれたサティとルリの足元が、一瞬にして地を失う。感覚が反転し、まるで風そのものに乗せられたように──二人の意識は、記憶の深層へと導かれていった。


「っ……ここは……?」


次にサティが目を開けた時、そこには古代の大地が広がっていた。


高く澄んだ空。揺れる草花。風が囁くように通り過ぎる。そして、目の前に立っていたのは──


「……風巫女・ラーナ……?」


サティが呟くと、銀髪の少女が振り返る。彼女の眼差しはどこか儚げで、けれど確かな意志を湛えていた。


「これは……記憶の断片。あなた方が見ているのは、私の最後の“選択”の時」


その声は穏やかで、どこか悲しげだった。


「私は、風の神託を拒んだ」


「え……?」


ルリが驚いたように隣で声を上げる。


「風の神は、言ったの。大いなる災厄が近づいている。私が風の巫女としてその力を開放すれば、人々は救われる、と……」


けれど、と彼女は続ける。


「その力は、私の命を代償にするものだった。私が“器”として消えることで、風の災厄を封じる。……でも私は、生きていたかった。ただ、それだけだったのに」


サティは静かに彼女を見つめていた。


この少女は、巫女である前に一人の“人間”だった。神の命令に従い、世界のために自らを犠牲にすることを拒んだ──それは決して罪ではない。


「……それで、あなたはここに残った?」


「ええ。私の選択は、正しくなかったかもしれない。だから……この神殿に残ることにしたの。次に“風”を受け入れようとする者のために、私の想いと記憶を託すために」


風が吹く。柔らかな春の風。


ラーナは微笑みながら、サティに手を差し出した。


「今度こそ、誰かが風とともに歩めるように……。あなたが、それを選べるように。私の記憶と想いを、あなたに託したい」


──そして。


サティの胸元に、優しい風が宿る。


体の奥から、何かが変わっていく感覚。魔力の流れ、五感、そして風への“共鳴”が強まっていく。


【ユニークスキル《風霊融合》を獲得しました】

【新たな系統魔法《風巫術》を習得しました】


ルリが驚き、サティの顔を覗き込む。


「サティ……今の、すごい力が……!」


「ええ……きっと、これが“風の巫女”の記憶が伝えたかったもの」


記憶の風景が薄れていく。ラーナの姿も、光とともに消えていく──だがその微笑みだけは、最後まで残っていた。


「ありがとう、ラーナ。あなたの想い、確かに受け取ったわ」


サティの瞳に、強い光が宿る。


神殿の試練を越え、彼女はまた一つ“真実”に近づいた。そしてこの先、風の力は彼女の導きとなるだろう。


──だが。


風がざわめいた。遠く、地の底から響くような不穏な気配が、わずかに空気を震わせる。


「……今の、何?」


「風が……警告してる?」


神殿の奥。かすかに開いた隠し扉の先には、まだ語られていない“過去”が眠っている。


風巫女の記憶は、まだ終わっていなかった。


(つづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ