風巫女の記憶②
前回までのあらすじ
サティとルリは「風の神殿」へと辿り着き、そこで封じられた“風巫女”の記憶の断片を解放する。
神殿内部には不穏な風の囁きと、過去の巫女の悲劇の面影が漂っていた。
ルリの身体には風の精霊の力が流れ込み、変異の兆しが現れる。
そして神殿の奥で現れた魔物との戦い――その最中、ルリの中に眠る巫女の記憶が一部目覚めた。
「サティ……わたし……知ってる。ここに何があるのか」
ルリの瞳が、風に溶けるように淡く輝いていた。
まるで別人のような声。その奥底には、遥かな記憶の波が揺れていた。
「ルリ……あなた、まさか……」
サティが警戒するように前へ出ると、神殿の天井から――
淡い風が渦を巻き、二人の前に“記憶”が現れた。
それは古の時代、風巫女“ラーナ”の映像。
人々に崇められながらも、彼女は一人、封印の儀に向かっていた。
『私の身を捧げ、この地に吹き荒ぶ災いの風を封じましょう……』
巫女ウィルの言葉に続いて、神殿全体が軋むように震えた。
ルリは膝をつき、頭を抱える。
「やだ……わたし、こんなこと望んでない……!」
彼女の中で、ラーナの記憶が、意思を持ったかのように重なり始める。
「ルリ!」
サティはすぐさまルリの肩に手を伸ばす。
だがその瞬間、神殿の中央から異様な風が吹き荒れ、二人を引き離した。
「巫女の器よ……いずれその身を、我ら風の加護に捧げよ……」
どこからともなく響く声。
風の精霊か、あるいは――古き神の残滓か。
「そんなの、絶対にさせない」
サティは短剣を構え、風の魔物へと立ち向かう。
ルリの身体には風の紋章が浮かび、記憶と力が暴走し始めていた。
「サティ……わたし……壊れちゃいそう」
「大丈夫。私が、絶対にあなたを守るから」
風が叫び、記憶が唸る中――
神殿の奥で“風巫女の真実”が、ついに明らかになろうとしていた。
次回:
「巫女の継承 ―風を抱く者―」
ルリが継ぐのは、悲劇か、それとも希望か。
サティの決断が、二人の運命を切り開く。




