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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第16章 休暇旅行編

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風巫女の記憶①

石扉の向こうは、風の音が完全に消えた空間だった。


無音。無風。そして、気配だけが圧倒的に重い。


「空気が……澱んでる」


ルリが静かに呟いた。警戒の眼差しを向ける先、中央にぽっかりと空いた円形の祭壇。その上に、まるで人の形を模したかのような仮面と黒衣の影が、ぴたりと動かず佇んでいる。


だが、その存在は確かに「生きていた」。


「――来たのね、“継ぎ手”」


囁きは再び響く。だが、今度ははっきりとサティの意識に届いた。


(……私に話しかけている?)


「あなたは、風の巫女の意志を継ぐ者。ならば知っているはず……この封印が、どれほどの犠牲をもって成されたか……」


サティの脳裏に、一瞬の眩暈が走る。

視界が白く染まり、次の瞬間、彼女は――


***


――違う場所に立っていた。


祭壇の上、無数の祈祷師が涙を流し、手を取り合っている。神殿を襲う暴風。空が裂け、大地が悲鳴を上げている。


その中心に、ひとりの少女が立っていた。


白い衣、風の印を刻んだ額。そして、その手には、蒼く輝く封呪の印。


「私が囁きを封じます。だから、誰も傷つかないで……」


彼女はそう言って、風の中に身を投げた。


それが、風巫女――そして、この神殿の最初の犠牲者。


***


「――これは……記憶……?」


サティがはっと我に返ると、仮面の存在が近づいていた。静かに、しかし確かな意思を持って。


「もう封印は限界よ。外の世界は変わった。もう、私の存在は害ではないわ」


「けれど……」


「貴女がここまで来たということは、試練を超えたということ。ならば、選びなさい。“封印の継承”か、“解放と対話”か」


沈黙の神殿に、囁きが響く。


サティは一歩踏み出し、静かに問いかけた。


「あなたの“本当の名”は?」


仮面が微かに揺れる。

そして、囁きが名乗ったのは――


「――ラーナ=フェリア。風巫女の、最初の名よ」


次の瞬間、封印が微かに緩み、神殿全体が軋んだ。


何かが目覚める。


「サティ!」

ルリが声を上げ、戦闘態勢に入る。


しかしサティは、落ち着いた声で言った。


「ルリ。まだだ。これは“敵”じゃない」


「……でも!」


「この封印の中には、“何かを伝えようとする意思”がある。対話できるなら、私はそれに賭けたい」


風が――わずかに、動いた。


それは長い封印の中で、誰かが待ち続けた微かな希望の風。

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