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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第16章 休暇旅行編

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風の神殿と、封じられた囁き

翌朝、風は一層澄んでいた。


「……さすが神域の風ね。肌に触れるだけで、体の奥が整う感じがするわ」


「このあたりは『風の巫女』が祈りを捧げた土地なんです。

癒しと浄化の力が強くて、魔力の循環も安定しているらしくて」


朝食を済ませた私たちは、宿から徒歩で森へ向かっていた。


木々の間を抜けるたび、風のささやきのような音が耳をくすぐる。


「……確かに、この空気、少し不思議ね」


私の体内を流れる精霊の力が、風の音と同調しているのを感じる。


しばらくして、神殿が見えてきた。


風の神殿――

苔むした白い石柱に囲まれた、古い拝殿のような建物。


装飾は質素だが、どこか神聖で、厳かな気配に満ちていた。


「観光地って聞いていたけど……想像以上に静かね」


「今日のこの時間帯は、参拝者も少ないらしいです。

風の巫女にちなんで、黙って祈るのが習わしみたいで」


ルリが神殿の入口で手を合わせるのを見て、私もその横で目を閉じた。


……その時だった。


ふっと、背後の風が変わった。


空間がひと呼吸だけ、違う“圧”を持ったのだ。


私はすぐに気配を探る。

ルリも、祈る手を止めて振り返った。


「今の……?」


「感じたわ。微かだけど、魔力の揺らぎ。……それも、“不自然な”」


私はゆっくりと神殿の奥へ歩を進める。


祠の裏手にある細い通路。その先には、誰も近づかない封印の祭壇があると、宿の女将が話していた。


(観光では入れない場所――でも、行かなくちゃ)


***


祭壇の間は、石の階段を下った地下にあった。


薄暗い空間。

湿った空気のなかに、封じられた魔力の“名残”が漂っている。


中央には、古代文字で刻まれた石碑。

その表面には、今も封印の紋章が微かに輝いていた。


「これは……“抑制符文”ね。

ただの結界じゃない。“意志を封じるため”の封印……!」


「意志、ですか?」


私はルリに頷いて答える。


「これは、ただ力を閉じ込めているんじゃない。

誰かの“思考”や“記憶”のような、魂に近いものを沈めるための構造……」


言葉を言い終える前に、私は息を呑んだ。


――そのとき。


ルリが、ふらりと前のめりに崩れかけた。


「……ルリ?」


「だ、大丈夫……。ちょっと、頭の奥が、ざわついて……っ」


「無理しないで。……戻りましょう」


私はすぐに彼女の肩を抱えて支えた。


けれど、ルリはかすかに震えている。


そして――その額に、わずかに光る文様が浮かびかけていた。


(これは……)


見覚えのある模様。

“封印”と“器”に関わる刻印。


「ルリ、あなた……何か感じた?」


「……聞こえたんです。声が。

――“おかえり”って……私に、語りかけるような……」


ルリの声は震えていた。

けれど、その瞳はただ恐れるだけではなかった。


(まさか……この神殿、ただの観光地じゃない。

ここには、“かつての何か”が眠ってる)


私は周囲の気配を再確認した。


魔力の残滓が、空気の流れとともに静かに蠢いている。


「一度、宿へ戻りましょう。

……この神殿、もう少し本格的に調べる必要がありそうね」


「はい……ごめんなさい、足を引っ張って」


「違うわ。むしろ“あなたが感じた”ということが、鍵になる。

ルリ……また、あなたの中の“何か”が反応してる」


ルリは、何も言わず、ただ小さく頷いた。



その夜。


宿に戻ったあとも、ルリの記憶には“あの声”が残っていた。


夜風に紛れて聞こえた、低く、やさしい“何者か”の囁き。


――「おかえり、器よ」


ルリの中に、再び眠る何かが動き始めていた。

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