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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第14章 古代遺跡編

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夢の巫女と、影なるもの

白い光がすべてを飲み込み、私は視界を失った。風も、匂いも、温度も――すべてが剥ぎ取られていくような感覚。


けれど、唯一残っていたのは、ルリの手の温もりだった。


「……サティさん……」


声が遠くなり、そして――


世界が、反転する。


***


気づけば、私は石畳の上に立っていた。


見上げれば、空は黒く、星は砕け、空気は焼けている。


大地は裂け、炎と影が入り混じり、世界そのものが壊れかけていた。


「ここは……?」


「――記憶の底。私の“過去”よ」


声がして、振り返ると、そこに立っていたのはルリ――


けれど、今の彼女とは違う。


長く伸びた髪。巫女装束。鋭い瞳。

背筋をまっすぐに伸ばしたその姿は、まるで女王のような気高さを帯びていた。


「あなたは……ルリ?」


「正確には、“ルリだった者”。私は“封印の巫女”――

太陽を喰らう存在、《影の王》を封じた存在」


彼女が指差した先、黒い大地の中央に、巨大な影が蠢いていた。


それは形を持たぬ混沌。

見る者の心に恐怖と絶望を流し込む、“声なきもの”。


「この存在は、かつて人々の心に巣食い、世界を食らおうとしたわ。

私は“器”となり、これを封じた――けれど、同時に自分の記憶ごと、ここに閉じ込めたの」


「記憶ごと……?」


「そう。私は、自分が“何者だったのか”すら捨てたの。

その代償として、世界は数百年の平穏を得た」


彼女――巫女のルリは、うっすらと笑った。けれど、その目には強い覚悟の光があった。


「けれどね、サティさん。

時間は、封印すらも風化させる。

そして私――今の“ルリ”は、“鍵”としてこの場所に引き寄せられた」


「それって……あなたの中に、あの存在の一部が?」


「そう。私は“器”でもあり、“鍵”でもあった。

……私の中には、まだ“影”が息づいている」


その言葉と同時に、視界がグラリと揺れる。


黒い影が唸り声を上げ、裂けた空を這い寄るように広がっていく。


「もう時間がない。

サティさん――“今の私”を救って。

過去ではなく、“今”を選んで。彼女が影に飲まれたら……再び世界が飲まれるわ」


「でも、どうやって――!」


その瞬間、巫女のルリは微笑み、私の手をそっと取った。


「……あなたなら、できる。

だって、あなたは、私が唯一――“信じた相手”だったから」


そして、世界が崩れる。


記憶の世界が砕け散り、光が差し込み、現実が戻ってくる――


***


「――ッ!」


私は目を開いた。


現実の遺跡の中。石棺の前。


そしてその中心に、光と闇をまとうルリが、宙に浮かんでいた。


彼女の中で、“過去”と“今”が融合しようとしている。


けれど――私は知っている。


彼女はまだ、帰ってこられる。

そのために、私はここにいる。


「……ルリ。あなたは、あなたよ」


私は歩き出す。

再び、彼女の手を取り戻すために。

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