闇を裂く刃、揺らぐ魂
石壁を抜け、遺跡の深部へ進む私たちの前に、不意に冷たい風が吹き抜けた。
風は“声”を運び、地底の闇を揺らす。
「気をつけて……!」
フィーネの声が、警告の鐘のように響く。
次の瞬間、闇の中から禍々しい影が飛び出した。
それは腐敗した獣のような魔物。身体は異形の粘膜に覆われ、爪は鋭く、瞳は赤く光っている。
「来たわね……!」
私は杖を握りしめ、一歩前へ。
ルリもすぐ隣で剣を抜いたが、その手が微かに震えている。
「皆、構えて!」
調査班も武器を構え、咄嗟の緊張が走る。
魔物は、凄まじい勢いで飛び掛かってきた。
私は風の魔術を瞬時に展開し、刃のような風の刃を作り出す。
「切り裂け!」
空気を切り裂く音とともに、風の刃が魔物の腕を斬り裂く。
だが、魔物は激しい悲鳴を上げると同時に、身体の一部が異様に変形し、より巨大で獰猛な姿へと変わっていった。
「強化されてる……!」
ルリの声が震える。だが、彼女の瞳はいつしか、戦慄の影を帯びていた。
「大丈夫? ルリ!」
私は声をかけたが、彼女は答えず、深く息を吸い込んだ。
その瞬間、ルリの体から微かな青白い光が漏れ始める。
「な……何?」
「これ……私じゃない……!」
ルリの身体を包む光が強くなり、剣が震え、瞳の色が淡い紫へと変化していく。
その異変は急速に進み、彼女の周囲の魔力場も不安定になった。
「ルリ、落ち着いて!」
だが彼女は自分の意思とは裏腹に、体が勝手に動くように見えた。
魔物に向かって飛び込み、呪文の詠唱を始めるが、言葉が断片的で、どこか古代の言語のようだった。
「――封、印、開、か……」
「そんな呪文、教えてないはず……!」
私は動揺しながらも、ルリの異変を見逃さず、急いで彼女を支えた。
その時、魔物が再び襲いかかろうとしたが、ルリの放った魔術の光が爆発し、闇を裂いた。
「……ふぅ」
戦闘は終わったが、私はルリの目を見て、問いかけた。
「一体、何が起きているの?」
彼女は苦しげに首を振り、やっと言葉を絞り出す。
「わからない……でも、この遺跡と、私……何か繋がってる」
その声には、恐怖と困惑が混じっていた。
確実に、彼女の中で何かが目覚め始めている―。




