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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第14章 古代遺跡編

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灰の深層、目覚めの門

地図にすら載らぬ山の尾根を、風がひゅうと鳴いて通り抜けた。


私たちは崖沿いの細い道を進みながら、遠くの山影に目をやる。大地の裂け目のようにぽっかりと空いた、ぽつんとした黒い影。それが目的地、《灰の深層》の入口だった。


「……あれが、遺跡の門?」


「ええ。外壁の崩れ方から見て、かなり古い時代のものですね。たぶん、メレディア文明以前……もっと前かも」


ルリが魔力測定用の板を見ながら答える。その声は冷静だったが、眉間にわずかな皺が寄っていた。


私の横を歩いていたフィーネが肩越しに言う。


「妙ね。森も草も、やけに“音がしない”。このあたり、魔物すら姿を見せないなんて」


たしかに、まるで音という音が吸い取られてしまったような感覚だった。


鳥の声も、虫の羽音も、風のざわめきすらない。代わりに聞こえるのは、自分たちの足音と、時折響く石のきしむ音だけ――。


「……この静けさ、嫌いじゃないけどね」


私はそう呟きながら、入口の前で立ち止まった。


目の前の岩壁に彫られた門は、高さおよそ五メートルほど。


その中央には、円形の魔法陣が刻まれていた。長い年月で摩耗していたが、ところどころに古代の文様が残っている。


私はそっと手をかざし、魔力を流す。


――ピクッ。


門がわずかに震え、魔法陣の一部が淡く光を帯びた。


「共鳴……?」


「……ちょっと待って」


ルリが一歩前に出て、私の隣で魔法陣を見つめる。


彼女の掌から、微かに青白い魔力が流れ込んだ瞬間――


カチッ。


「開いた……?」


魔法陣がゆっくりと回転し始める。


そして次の瞬間、石造りの門が音もなく左右に割れ、闇の中への通路が開かれた。


風が、吹き抜ける。


ありえない。


地下に向かって開かれたはずの通路から、“外から”風が流れ出てきた。


それも、ひどく冷たく、どこか湿っていて、まるで何かが長い間閉ざされていた扉の奥から、ようやく自由を得たかのような――。


「……この風、嫌な感じがするわ」


「ねえサティさん……」


ルリが私を見上げた。

その瞳に、わずかだが――恐怖が浮かんでいた。


彼女は普段、何が起きても冷静で、飄々としている。


そんな彼女が、私の袖をそっとつかむようにして言う。


「この奥……呼ばれてる気がする。私だけに」


「呼ばれてる……?」


「うまく言えないけど……ずっと夢で見てた場所。崩れた柱、石の道、冷たい空気。あの絵も……」


「絵?」


「ううん、気のせい。きっとただの偶然……だといいなって思ってる」


私は彼女の表情を見つめながら、確信に近い違和感を覚えていた。


(やっぱり……ルリ、あなたも何かを抱えてるのね)


だけど今は、その秘密を問いただすべきではないと、本能が告げていた。


「……いいわ。私が隣にいる。何があっても、あなたを置いていったりしない」


「……ありがとう」


門の先に、ゆっくりと足を踏み出す。


光の届かぬ地下へ。

記録に残らぬ文明の奥底へ。

そして、風の止んだ静寂の中へ――。


この瞬間、私たちはまだ知らなかった。

この遺跡での調査が、単なる任務ではなく、“過去と現在”を繋ぐ目覚めの物語になることを。

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