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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第14章 古代遺跡編

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SS:風は、ふたりを重ねて

ルメリアの春風は、どこか懐かしい匂いがする。

それは、別れの記憶と、再会の予感を連れてくる風――。


私はギルドの中庭で、久しぶりにひと息ついていた。


この数日、遺跡調査の準備や王都との連絡で慌ただしくしていたから、束の間の静けさが心地よかった。


そんなときだった。

風に乗って、小さな足音が聞こえてきた。


「……サティさん」


その声を聞いた瞬間、私はゆっくりと振り返る。

そこには、旅の埃をまとったままの少女が立っていた。


銀の髪が風に揺れ、やや疲れた表情の奥で、変わらぬ意志が光っていた。


「ルリ……帰ってきたのね」


私は思わず立ち上がると、何も言わずに彼女の肩にそっと手を置いた。


「はい。遅くなって、すみません」


「無事でよかった。それだけで、十分よ」


沈黙が、ほんの数秒だけ続いた。

でもそれは、ぎこちない間じゃなかった。ただ、言葉よりも先に“安心”が胸を満たしただけ。


「……サティさんのいるギルドに、戻ってこれてよかったです」


「ふふ、まだ歓迎の紅茶も出してないのに、ずいぶん湿っぽいこと言うのね」


私が笑うと、ルリもふっと表情を和らげる。

この距離、この空気――たった数歩の間が、ずっと遠く感じていたのかもしれない。


「実はね。今度、地下遺跡の調査に行くの。少し厄介な場所なんだけど……あなたも、一緒に来てくれる?」


私がそう尋ねると、ルリは一瞬、驚いたように目を見開いた。


けれど、すぐに真っ直ぐな瞳で頷いた。


「もちろん。……サティさんの横なら、どんな場所でも」


それは誓いのような声だった。


でも、その言葉の奥に――ほんの僅かに、心を押し殺すような気配があった。


(……ルリ。やっぱり、あなたも何かを隠してるのね)


けれど今は、それを問いただすつもりはなかった。


風が吹く。

ふたりの間にあるものを確かめるように。


「じゃあ、紅茶は遺跡の帰りにしましょう」


「はい。必ず一緒に、戻ってきましょうね」


小さな約束が交わされ、また風が吹いた。

それは、始まりの風。

再び肩を並べる、ふたりの旅路の合図だった。

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